「いまいる場所から引っ越しをせよーー藤田敏八の映画はどういう映画だったのか」
西山洋市(映画作家)

 藤田さんが亡くなる前、病院にお見舞いに行った時に付き添いの方から意外な話を聞いた。夢に魘された藤田さんが「そんな芝居じゃダメだ!」と怒鳴ったというのだ。藤田さんは誰を怒鳴っていたのか。どんな芝居を望んでいたのか。何を演出していたのか。ぼくは今日までそのことを深く考えずに来てしまった。そして「予期せぬ出来事」を見た。そこには藤田敏八のかつての青春映画の続きが、より過剰な中年映画として描かれていた。これは偶然によって青春をリメイクする映画だ。その偶然を生み出したのは「引っ越し」だった。多分それが藤田敏八の方法なのだ。では藤田敏八はどこからどこに引っ越そうとしていたのか。