赤坂太輔(映画批評家)

アカデミー賞や映画祭受賞作以外は日本に知られることはまるでないが、今世界で最も注目される国の一つ、アルゼンチンは伝統ある南米の映画大国である。ジョン・アルトンやグレッグ・トーランドの弟子たちによる光と影の撮影、ラロ・シフリンやガトー・バルビエリらを輩出したJazzyな音楽、時にボルヘスやコルタサルらも加わった文学的伝統を背景に持つ脚本……ヒューゴ・フレゴネーズからリサンドロ・アロンソまでを送り出したその歴史を見直してみると、軍政時代の暗い記憶やタンゴからくる一般的イメージを離れて、この映像的時代にダイレクトでリンクする同時代性を持った作品たちが見えてくる。このシリーズではそんなアルゼンチン映画の「陰の流れ」を追ってみる。