渋谷哲也(ドイツ映画研究者)

ファスビンダーの死後、ドイツ映画は国際的な注目を失っていた。その沈黙を破ったのが2000年代初頭の「ベルリン派」の台頭である。フランスでは「ヌーヴェル・ヴァーグ・アレマーニュ(ドイツの新しい波)」と呼ばれた。日常的な事柄に目を向け、スペクタクルや饒舌とは無縁に映像本位でドラマを紡ぐ繊細な作品群は、当初から批評で絶賛された。だが興行的な成功からは遠く、おそらくそこに「ベルリン派」の知名度があまり上がらなかった理由があるのだろう。だが90年代から活躍しているペッツォルト、アルスラン、シャーネレクは自己の作風に忠実にさらに大きな歴史や物語の世界を指向している(ペッツォルトは東ドイツの過去に、アルスランは19世紀末の西部開拓の世界に)。アピチャッポン、ダルデンヌ兄弟などの影響も語られる「ベルリン派」の映画は、映像への信頼によって生み出された珠玉の作品群である。戦後ドイツ映画がずっと実現しえなかった、いわば<純粋映画>がそこにある。