j.k.

 日本の「フランス文学」は、明治薩長政府への反感に起源して、近代を通じて政治・軍事・経済の一元的価値への批判として機能し、戦後はアメリカ帝国主義への抵抗勢力として命脈を繫いできた。
 その現状最後の光耀が1980年代初頭の「ニューアカ」であり、なかでも映画論はポスト構造主義批評の見本帖のごとき知的テンションを極め、文彩の限りを尽くしてリトル・マガジンの黄金時代の掉尾を飾った。
 当時、ゴダール、ヴェンダース、ジャームッシュ等々の最新流行を傍目に、アステア&ロジャース、ルビッチ、オフュルスを精妙典雅に語った千葉文夫の声の肌理を、わたしたちは忘れられない。
 30年が過ぎた。2017年2月、千葉文夫教授は早稲田大学での最終講義「アーティストの/としての肖像 デュシャンからレリスへ、遊戯の名において」を、『踊る大紐育』(MGM 1949)の“I’m so lucky to be me”を口ずさむことで締め括った。
 A面は終わった。B面に耳を傾けよう。