ドキュメンタリー映画の新しい地平に向けて—
佐藤真(映画作家)

映画は世界を映す鏡である。その中でもドキュメンタリー映画は、世界のあり方を批判的に映し出す鏡といえる。主義主張によって批判するのではなく、あくまで映像表現によって世界を批判的に受けとめる鏡のことだ。ところが一般にはこの真逆のもの、つまり何らかの主義主張のために現実を映し出した映画がドキュメンタリーだと考えられてきた。だが、こうした政治主義や啓蒙主義の亡霊たちは、いずれは完膚なきまで放逐されるに違いない。
世界を批判的に映し出す鏡である限り、ドキュメンタリー作家の批判精神は、映像表現の様式そのものまでに向かわざるを得ないだろう。何よりもリアルと虚構の関係を真摯に問い返さざるを得ない。なぜなら、生身の現実よりもバーチャルな世界の方にリアルを感じる時代に我々は生きているからだ。だから、ドキュメンタリー映画の新しい地平は、この<虚実皮膜の境目>のあたりに浮遊していることだけは確かなことである。