葛生賢(映画作家・映画批評家)

ムレが「カイエ・デュ・シネマ」で映画批評家としてデビューした時、主な映画作家たちはすでに年上の同僚によって発見されていた。だからムレができたのは、彼らが取りこぼしたB級映画作家を丹念に「落穂拾い」することだった。しかしB級映画を通して、彼は映画製作の根底にある経済的問題を自覚せざるを得なくなる。ヌーヴェル・ヴァーグの主な担い手と後発の彼を分かつものは、その自覚の有無である。事実、ムレは自作全ての製作を自ら手がけることになるだろう。乏しい経済的条件はいやでも画面の表層に刻印される。しかしそんな条件でも、いや、だからこそどんなスペクタクルが可能なのか。ムレの初期作品は我々にそれを実証してくれる。