渋谷哲也(ドイツ映画研究者)

「ネストラーの映画は、私たちの目と耳を知性と感性を刺激してやまない」
ストローブ=ユイレが時代の狭い枠に収められない強靭な普遍性によって60年代以降の「若いドイツ映画」に大きな足跡を残したことと対照的に、彼らの盟友ペーター・ネストラーは戦後ドイツにおいて黙殺と追放の歴史に属する呪われた作家となった。だが現在ネストラーの映画を見る時、そのまなざしの真摯さ、社会観察の多重性、詩的テクストの大胆な使用において孤高の様式性を持ったドキュメンタリストを目の当たりにする。ネストラーは声高に社会の不正を告発することはない。だがその怒りの声は深く静かに秘められているからこそ、私たちの目と耳を知性と感性を刺激してやまない。