門間貴志(映画研究者)

機械文明の恩恵を受けて発展した映画芸術。しかしいくら機械が発達しても、世界のすべての映画にアクセスすることは困難である。その国だけで消費され、国外に出てくる機会のない映画は膨大な数に上るだろう。ここでは大河のような映画史の底流に蟷螂の斧のような手をのばし、そうした映画を拾い上げてみたいと思う。それは映画史の再考などという大それた試みではないが、映画史をほんの少し豊かにできるかも知れない。日本に紹介されなかったり、その国でも忘れ去られてしまった映画などを、映画史的に可視化してみようというささやかな試みである。 第一回は北朝鮮映画をとりあげる。北朝鮮では建国以来ソ連映画の圧倒的な影響下で映画が撮られてきた。社会主義国として共通した主題や技法も多く見られる。いくつか場面を参考上映の形で紹介したい。