黒沢清(映画作家)

初めて『ルートヴィヒⅡ世のためのレクイエム』を見たとき、当時私は既に相当数の映画を見ていたのだが、それでも目の玉が飛び出るほど仰天した。何に?と問われるとうまく言えないのだが、たぶん作者の映像と音に対する圧倒的な盲信と、この野蛮な営みに多くのスタッフやキャストを巻き込んだ痛快な自信過剰とに。そして、どうせ映画を撮るなら理屈抜きにこのようでありたいと強く憧れ、これを大らかに許す映画ってやっぱり凄い、と確信したのもあのときだった。