エル

El 1952年(92分)

監督・脚本/ルイス・ブニュエル

製作/オスカル・ダンシゲルス 脚本/ルイス・アルコリサ 原作/メルセデス・ピント 撮影/ガブリエル・フィゲロア 音楽/ルイス・エルナンデス・プルトン

出演/アルトゥロ・デ・コルドバ デリア・ガルセス ルイス・ベリスタイン

 フランシスコ・ガルバン(アルトゥロ・デ・ゴルドバ)は敬虔なカトリック信者で、品行方正、四十歳を過ぎても童貞のまま、メキシコシティの広大な邸宅に独り暮らしていた。ある日、教会に行ったフランシスコは、素晴らしい足の持ち主、グロリア(デリア・ガルセス)に一目惚れしてしまう。以来何日も教会に通い続け、ついにグロリアを見つけ、愛をうちあける。
 突然の告白に驚いた彼女は、婚約者がいることを言うと、逃げるように去ってしまう。偶然にもグロリアの婚約者ラウル(ルイス・ベリスタイン)を知っていた彼は、ラウルの建築事務所を訪ねて、それとなく二人の関係を聞き出し、その場で思い立ったように、ラウルとグロリアを自分の家に招待したいと言う。そんなフランシスコの思惑に気づかないラウルは、グロリアとグロリアの母親を誘い、フランシスコの家を訪れる。
 フランシスコの祖父が設計したという家は、1900年の様式で作られた広く、独創的なアイディアに満ちた邸宅だった。何も知らずに訪れた三人。だが、グロリアだけは、フランシスコが仕組んだことだとすぐ気づく。家の中をフランシスコに案内されていくうち、彼の紳士的な態度と強引な求愛に負けたグロリアは、ラウルを捨て、結婚を承諾する。
 数カ月後、街で偶然にグロリアと出会ったラウルは、彼女の様子がおかしいことに気がつき、家まで送ることにした。車中で彼は、フランシスコのすさまじい嫉妬ぶりについて聞かされる。
 彼女の話では、新婚旅行に出掛けたその夜の列車の中で、早くも彼の嫉妬は始まり、彼女の過去を問いつめたのだという。さらに旅先のレストランで、偶然グロリアの友人に会ったことが気に入らず、注文した食事も食べずに飛び出してしまう。フランシスコにとって、何気ない周囲の笑いもすべて嘲笑に聞こえてしまうのだ。ホテルに着き、どうにか彼の気持ちも落ち着いたかのようにみえたが、それもつかの間、先ほどのグロリアの友人が同じホテルの、しかも隣室に泊まっていることがわかると、鍵穴に長い針を差し込む。グロリアの友人が、鍵穴から自分たちを覗いていると想像しているのだ。偏執狂ぶりはさらにエスカレートし、暴力沙汰になる。
 たまりかねた彼女は母親に相談するが、まったく相手にしてもらえない。しかも、彼の嫉妬心は募る一方で、仕事の訴訟のために雇った弁護士との仲さえも疑ったうえ、彼女への愛は暴力へと発展する。空のピストルで脅したり、寝ている彼女にロープやハサミを使って拷問を加えようとしたり、はては大聖堂の塔から突き落とそうとする始末。最初は、彼の嫉妬は激しい愛の証しだと理解していたグロリアだったが、しだいに身の危険を感、思いあまって彼をよく知る神父に相談することにした。しかし神父も頼りにならないことを知って、ついに家を出てしまう。自分たちの秘密を神父に知られたことに半狂乱になったフランシスコは、ピストルを持ったままグロリアの幻覚に囚われ、教会へ向かう。そこで再び幻覚に襲われ、神父に飛びかかってしまう。
 時が過ぎ、グロリアもかつての婚約者ラウルと再婚した。フランシスコは教会の事件以後、精神病院で治療を受け、今は修道院で静かに暮らしている。ある日、グロリア、ラウル、彼らの息子の三人がその修道院を訪問する。彼が元気なことを知った一家は、面会せずに帰っていく。この訪問を陰で秘かに見ていた彼は、しかし取り乱すことなく、院長に自分が正気であることを告げると、庭をジグザグに歩き出すのだった。