スカーレット・ストリート

Scarlet Street 1945年(103分)

監督・製作/フリッツ・ラング

脚本/ダドリー・ニコルズ 撮影/ミルトン・クラスナー 音楽/ハンス・J・サルタア 編集/アーサー・ヒルトン

出演/エドワード・G・ロビンソン(クリストファー・クロス) ジョーン・べネット(キティ・マーチ) ダン・デュリエ(ジョニー・プリンス) マーガレット・リンゼィ(ミリー) ジェス・パーカー(ジェインウェイ) アーサー・ロフト(デラロウ)

(あらすじ)
 クリストファー・クロスは実直な銀行の出納係だった。彼の勤続25年を祝うパーティーの席で、彼は上司オーガスから懐中時計を贈られた。その帰り道、彼は同僚のチャーリーに、以前は画家志望で、今でも休日には絵を描いていることを話し、いつか家に観に来るように誘った。チャーリーと別れて夜の街路を歩いていると、若い女が暴漢に襲われているところに出くわした。クリスは女を助け、そのアパートまで送っていく。そして階下にあるバーに入った2人は、互いの身の上を話し始めた。女の名はキャサリン・マーチ、愛称キティと言い、舞台の仕事をしている。クリスは自分のことを裕福な画家だと偽った。帰り際に、クリスはキティが口にしたジョニーという男のことを尋ねたが、キティは一緒に住んでいる女友達ミリーの恋人だと答えた。
 翌日は休日だった。クリスがいつものように家のバスルームで絵を描いていると、早速チャーリーが訪ねてきた。彼が家のサロンに掛けられた肖像写真のことを聞くと、クリスは、妻の亡くなった前夫だと話した。妻は何かにつけ殉職した刑事であった前夫のことを引き合いに出し、クリスにつらく当たるのだった。一方、キティのアパートにはジョニーが来ていた。実はキティは街婦だったのだ。ジョニーは彼女のかせぎが悪いことに不平を言い、クリスのことを聞いて彼を利用して金を巻き上げることをすすめる。そこにミリーが帰ってきて、ジョニーのことを非難したが、彼に惚れているキティは耳をかさなかった。
 クリスとキティがレストランで食事をしている。クリスは絵に対する自分の情熱を語ったが、キティは金に困って家賃が払えないと、相談を持ちかけた。どこかにアトリエとなるアパートを借りて、そこに住まわせてくれないかと言うキティに、クリスは自分は妻のある身だからといったんは断った。しかしキティへの思いは絶ちがたく、かといって銀行の金を盗む勇気のないクリスは、銀行に貸付を頼み、また妻が前夫から相続した株券の一部を盗み出して、アパートを借りる決心をした。
 新しいアパートにキティが移ってきた。クリスは自分に妻がいなかったら結婚してくれるかとキティに聞くが、彼女は話をそらして、欲しい服や香水を買うのにもっとお金がいるとせがんだ。クリスは何とかしようと答えた。ある日、クリスが銀行の金をごまかそうとしていると、不意に上司のホガースが現れた。しかしそれは、ただ小切手を換金するためだった。
 クリスが有名な画家だと言うことを疑っていたジョニーは、彼が残していった奇怪な絵を知り合いの質屋に見せ、一文の値打ちもないと言われて、それらの絵をグリニッジ・ビレッジの露店画商に預けた。ところが、それが高名な美術評論家ジェインウエイの目にとまり、彼は画廊主のデラロウを連れてキティのアパートを訪れた。居合わせたジョニーはとっさにそれらの絵を描いたのはキティだと言い、一同は作者が女性だったことにひどく驚いた。クリスの絵はキティの作としてデラロウの画廊に置かれ、それを目にしたクリスの妻は、他人の絵をコピーして芸術家を気取っているだけではないかと夫をなじった。驚いたクリスはキティのもとへ駆けつける。問われたキティは金に困って絵を売り、デラロウに請われてサインも入れたのだと詫びるが、クリスはむしろ喜んで、彼女の“肖像画”を描き始めた。
 ある日銀行に、クリスを訪ねて一人の男がやってきた。死んだと思われていた妻の前夫であった。男は金をくれれば黙って身を引くと持ちかけた。妻と別れる好機と考えたクリスはわずかな金を渡し、もっと欲しければ家に隠してある株券を盗めとそそのかした。その夜、家にきた男を、クリスは妻のいる寝室に通した。妻の悲鳴が聞こえてきた。
 クリスはキティと一緒になるつもりで、彼女のアパートにやって来るが、そこで抱き合って接吻しているキティとジョニーを目撃し、すぐに立ち去ってしまう。不手際に腹を立てたジョニーが帰った後、キティはミリーからの電話で、泥酔して怒り狂ったジョニーが再びそちらに向かったと知らされる。しかしその時、彼女の前に現れたのはクリスだった。彼はキティの不実を許して、なおも結婚を求めるが、彼女は最初から結婚などするつもりはなかったのだと、あざ笑うばかりだった。カッとなったクリスは、思わずそばにあったアイス・ピックを取り、彼女をメッタ刺しにしてしまう。呆然と去る彼と入れ違いに、ジョニーがやってくる。
 殺人事件の容疑者としてジョニーが逮捕された。クリスも使い込みが発覚して、銀行をクビになった。裁判所ではあらゆる証言が、ジョニーに不利にはたらいた。クリスも偽りの証言をした。そして、ジョニーは死刑の判決を言い渡される。処刑の日に刑務所を訪れたクリスは、その夜安ホテルに泊まった。しかしキティとジョニーの声が頭から離れず、たまりかねた彼は首つり自殺を計るが、寸でのところで助けられる。
 冬の公園。ベンチで寝ていたクリスは、警官に追い立てられた。画廊の前を通ると、キティの“肖像画”が運び出されるところだった。それを見送ったクリスは、再び街路を歩いていった。