特集 アルゼンチン映画の秘宮・上映作品解説

敬われるべき全ての人々

敬われるべき全ての人々
Los Venerables Todos

1963年(72分)
監督:マヌエル・アンティン
出演:ラウタロ・ムルア、フェルナンダ・ミストラル、ワルテル・ベダルテ

正体不明のある政治(?)グループが破局するまでを錯綜した時制で描写。本国で劇場公開されなかったものの、現在はアンティンの代表作とみなされている。後にアラン・レネやラウル・ルイスの作品を手がけたリカルド・アロノヴィッチが撮影。彼は本作を「真に革新的な作品」と語っている。

■監督紹介
マヌエル・アンティン
1926年生まれ。1962年にフリオ・コルタサルの短編小説「母の手紙」を映画化した『奇数の暗号』で長編デビュー。以後12本の作品を監督した後、アルゼンチン民主化後の1983年にラウル・アルフォンシン大統領のもとで国立映画視聴覚学院長に就任。1991年より国立映画大学の学長を務める。

キルケ

キルケ
Circe

1964年(71分)
監督:マヌエル・アンティン
出演:グラシエラ・ボルヘス、アルベルト・アルヒバイ、ワルテル・ベダルテ

マリオはデリアに惹かれるが、デリアには前の二人の恋人が謎の死を遂げた過去があった。まるで過去と現在の隔たりが消滅したかのように、デリアの過去がマリオとデリアの現在に介入する。原作者であり脚本にも参加したフリオ・コルタサルは、デリアをギリシャ神話の魔女キルケに喩えている。

闘鶏師の恋

闘鶏師の恋
El Romance del Aniceto y la Francisca

1967年(60分)
監督:レオナルド・ファビオ
出演:フェデリコ・ルッピ、エルサ・ダニエル

闘鶏師の男が二人の女に出会う。純朴な女と奔放な女の間で揺れ動き、男は悲劇へと突き進む。監督のレオナルド・ファビオは、アルゼンチンを代表する俳優・歌手でもあった。本作は名優フェデリコ・ルッピの代表作であり、かつ簡潔な演出でファビオの名作の一本とも評される。
※上映素材の状態が悪く、お見苦しい箇所がある場合がございます。予めご了承ください。

■監督紹介
レオナルド・ファビオ
1938年生まれ。1960年代から70年代にかけてのアルゼンチンを代表する俳優・歌手のひとりとして知られる。監督としては、1965年に『ある孤児の日記』で長編デビュー。熱心なペロン主義者として知られ、1976年の『夢見る、夢見る』の後の軍事政権時代はメキシコ、スペイン等に亡命。1987年の帰国後の監督作は3本に留まる。2012年11月5日に死去。

侵入

侵入
Invasión

1969年(120分)
監督:ウーゴ・サンチャゴ
出演:オルガ・スバリ、ラウタロ・ムルア

敵対勢力の街への侵入を阻止するために、ある老人に率いられた組織が暗躍する。だが、作戦の失敗や戦力の圧倒的な差により、組織は次第に追いつめられていく。ボルヘスとビオイ=カサーレスが脚本に参加。ジル・ドゥルーズやアラン・ロブ=グリエを魅了した伝説のアルゼンチン・ノワール。

■監督紹介
ウーゴ・サンチャゴ
1939年生まれ。フランスでロベール・ブレッソン監督作品『ジャンヌ・ダルク裁判』の助手を務めた後、アルゼンチンに帰国し、長編第一作『侵入』を監督。1974年に、『侵入』同様、ボルヘスとビオイ=カサーレス脚本の『はみだした男』を監督し、以後はフランスに移住。

死者たち

死者たち
Los Muertos

2003年(78分)
監督:リサンドロ・アロンソ
出演:アルヘンティノ・バルガス

刑務所にいる一人の男。彼は出所の時を迎え、何処かへと旅立つ。都会からジャングルの奥地まで、カメラは男に随行し、ドキュメンタリーとフィクションが一体となり、観客に男の旅を体感させる。リサンドロ・アロンソの名を国際的に知らしめた代表作。

■監督紹介
リサンドロ・アロンソ
1975年生まれ。国立映画大学で映画を学んだ後、2001年に『La Libertad』で監督デビュー。現在は、俳優のヴィゴ・モーテンセンと新作を準備中。

四つの注釈

四つの注釈
Esas Cuatro Notas

2004年(90分)
監督:ラファエル・フィリペッリ
出演:ヘラルド・ガンディーニ

作曲家・ピアニストのヘラルド・ガンディーニによるシューマンに想を得たオペラが、2000年に上演された。リハーサルと初演の記録、楽譜、そしてピアニスト、エッセイスト、音楽学者、批評家の四人による注釈、無人の空間……。様々な映像と音がオペラを解体し、映画は創造の瞬間を捉える。
※日本語字幕なし(本編内の文字情報は日本語字幕付き)

■監督紹介
ラファエル・フィリペッリ
1938年生まれ。アルゼンチン軍事政権下の1976年から82年までメキシコとロサンジェルスで亡命生活を送り、帰国後、1987年に単独長編第一作『不在』を撮る。以後は、ドキュメンタリーとフィクションの両方で活動。著書に「正しい画面 現代映画 小津からゴダールまで」があり、国立映画大学教授として現在の若いアルゼンチンの映画作家たちの育成にも携わる。

夜の音楽

夜の音楽
Música Nocturna

2007年(77分)
監督:ラファエル・フィリペッリ
出演:エンリケ・ピニェイロ、シルビア・アラシ

小説家と劇作家の中年のカップルが、夜のブエノスアイレスをメランコリックにさまよう。男と女が体験する時間は、フレーム外のノイジーな環境音と、クラシックとジャズ(アドリアン・イアイエス)の混合に彩られ、ドキュメンタリーとフィクションの狭間で、より豊饒なものとなる。

リヴァプール

リヴァプール
Liverpool

2008年(82分)
監督:リサンドロ・アロンソ
出演:ファン・フェルナンデス

現時点でのアロンソの最新長編作品。一人の船員の男が、下船して何処かへと向かう。都会の喧噪から山深い静寂へ、彼を待ち受けていたものとは……。『死者たち』の旅とは一転、雪山の奥地で厳しい生活を送る人々が暮らす土地への旅が描かれる。