没後30年 小川紳介の検証と継承 作品解説

■第1部 小川紳介と小川プロダクション

小さな幻影

小さな幻影

1957年/18分/白黒/16mm
製作:小川紳介 川名次雄 澤田秀信
演出:本田順二 梅田克己 ほか

小川紳介が仲間と組織した国学院大学映画研究会の第一作。人形劇を見に来た内気な少年の夢をメルヘン風に描き、子供を取り巻く環境と教育の大切さを訴えた短篇。同大学の児童文化研究会も協力団体にクレジットされている。題名はジャン・ルノワールの『大いなる幻影』をもじったという。

山に生きる子ら

山に生きる子ら

1958年/24分/白黒/16mm
製作:小川紳介 川名次雄
演出:梅田克己 神公平 ほか

国学院大映研第二作。前作に引き続き小川紳介が製作を担当。長野県の山間の分教場を2年がかりで記録した。一ヶ所で長期にわたって撮影するという小川プロの原形が、ここにすでにみられる。演出の梅田克己は後に、柳澤壽男監督『夜明け前の子どもたち』(1968)で助監督をつとめている。

青年の海ー四人の通信教育生たち

青年の海 四人の通信教育生たち

1966年/56分/白黒/16mm→HD
監督:小川紳介
撮影:奥村祐治

修業年数を4年から5年に延長する文部省の通信教育制度改定への反対闘争に参加するなかで、学ぶこと、働くことの意味を改めて問い直す4人の若き通信教育学生。その運動の行方と逡巡する心の軌跡を追って、最後にキャメラも彼らの周りを駆け廻り出す。大学闘争の予兆を伝える、鮮烈さに満ちた小川紳介初監督作品。

圧殺の森ー高崎経済大学闘争の記録

圧殺の森 高崎経済大学闘争の記録

1967年/105分/白黒/16mm→HD
監督:小川紳介
撮影:大津幸四郎

60年代末の全国的な学園叛乱の予感が横溢する、高崎経済大学の闘争の記録。不正入学問題に異を唱え学生ホールを占拠した学生たちが、警察権力と結託した大学当局によって追い詰められていく過程を描く。閉鎖空間を逆手に取り、クローズアップのつるべ打ちで見せていくスタイルは、学生たちの焦燥感を見事に捉えている。

現認報告書ー羽田闘争の記録

現認報告書 羽田闘争の記録

1967年/58分/白黒/16mm
監督:小川紳介
撮影:大津幸四郎

ヴェトナム戦争に反対する世界的な機運のなか、1967年10月8日、アメリカ支持を表明した佐藤栄作首相の訪米を阻止すべく、全学連は羽田で機動隊と衝突(第一次羽田闘争)。闘争の最中、18歳の京大生・山崎博昭が命を落とす。それを「事故死」とする警察発表に憤った小川らは、その死の真相を追いかける。

日本解放戦線・三里塚の夏

日本解放戦線・三里塚の夏

1968年/108分/白黒/16mm→HD
監督:小川紳介
撮影:大津幸四郎 田村正毅

1966年7月、政府は成田市三里塚・芝山地区での新空港建設を決定。翌年、測量が開始されると、地元農民らの反対運動も加熱する。立入調査を強行する空港公団職員と機動隊、それを阻止せんとする農民と全学連の間で繰り広げられる闘争を、「映画班」として農民側の視座から記録した、小川プロ「三里塚」シリーズ第一作。

日本解放戦線・三里塚

日本解放戦線・三里塚

1970年/141分/カラー/16mm
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

通称「三里塚の冬」。空港建設反対運動4年目、空港公団は農民たちに近づき、様々な懐柔策で彼らの結束の切り崩しを図る。次々と離脱者が出ていくなか、反対派農民にきざしていく疑問と空虚感。官憲との衝突を繰り返しながらも、徐々に戦いは農民たち自身の内面へと向けられてゆく。日本映画監督協会新人賞受賞。

三里塚・第三次強制測量阻止闘争

三里塚・第三次強制測量阻止闘争

1970年/50分/白黒/16mm
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

空港公団・機動隊vs.農民、3日間の闘争記録。公団は、空港建設に向け1週間にわたる強制測量の実施を告知。そうはさせじと自ら糞尿弾と化して抵抗する農民たち。結局3日で切り上げた公団側は、ほぼ全測量を終えたとの発表をマスコミに流す。闘争の激化を受け、緊急に撮影・編集・上映されたシネトラクト。

三里塚・第二砦の人々

三里塚・第二砦の人々

1971年/143分/白黒/16mm
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

空港公団は機動隊を引き連れ反対同盟用地6ヶ所に対し強制代執行を行う。バリケードや小屋が破壊されるかたわら、農婦らは自らを鎖で木に縛りつけて後退を拒む。地下深く掘られた壕の中、蝋燭の灯の下でも抵抗は続く。シリーズ中、最もスペクタクルに満ちた作品。マンハイム国際映画祭ジョセフ・フォン・スタンバーグ賞受賞。

三里塚・岩山に鉄塔が出来た

三里塚・岩山に鉄塔が出来た

1972年/85分/16mm→HD
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

1972年2月、滑走路の南端にあたる岩山地区で、空港公団の飛行審査を阻むべく反対同盟を中心に計画された滑走路使用不能作戦。全国から集まった鳶職や学生、現地の農民によって、半月をかけて60メートルの大鉄塔が築かれ、開港とそれに先立つ飛行審査を阻止し続けるが、まもなく鉄塔を壊しに機動隊が派遣される。

三里塚・辺田部落

三里塚・辺田部落

1973年/146分/白黒/16mm
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

農民たちの戦いを軸にした前作までと違い、辺田部落に腰を据えたキャメラは冷徹な長回しによって、彼らの日常を細心に記録していく。しかしそこには、青年行動隊リーダーが自死し、彼が眠る共同墓地も空港公団の手におちたことが、暗い影を落とす。『ニッポン国古屋敷村』ほか「牧野村」連作へと移行する転換点となる作品。

どっこい!人間節ー寿・自由労働者の街

どっこい!人間節 寿・自由労働者の街

1975年/121分/白黒/16mm→HD
構成:小川紳介
撮影:奥村祐治

山谷と釜ヶ崎に並ぶ日本三大寄せ場、横浜・寿町。日雇い労働者が暮らす簡易宿泊所が立ち並ぶこの「ドヤ街」に、小川プロの若きスタッフ4人が10ヶ月泊まり込んで制作。貧困、病苦、孤独の中に生きる、様々なバックグラウンドを抱えた労働者たちの個人史が見事に浮かび上がる秀作。ニヨン国際映画祭銀賞受賞。

クリーンセンター訪問記

クリーンセンター訪問記

1975年/57分/白黒/16mm
監督:小川紳介
撮影:奥村祐治

三里塚から山形県上山市へ移り住んだ小川プロから市への名刺がわりの一本。新設ゴミ処理場「クリーンセンター」のPR映画の体裁を取りながら、焼却炉の煤煙問題も視野に入れつつ、ゴミ収集作業の様子を丹念に描く。ゴミ焼却の仕事に従事する清掃作業員一人ひとりの豊かな個性と彼らが労働する姿を活き活きと伝える。

三里塚・五月の空 里のかよい路

三里塚・五月の空 里のかよい路

1977年/81分/カラー/16mm→HD
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

空港反対闘争は11年目の春を迎えた。三里塚へ4年ぶりに里帰りした小川プロは、依然つづく空港反対闘争とともに、北総台地を襲い農地を荒らす自然現象「赤風」にもキャメラを向ける。5年間滑走路を睨みつけるように立っていた鉄塔は公団の抜き打ち攻撃によって破壊され、空港公団側のヘリコプターが上空を飛び回る。

牧野物語・養蚕編

牧野物語・養蚕編

1977年/112分/カラー/8mm→16mm
監督:小川紳介
撮影:原正

「お蚕さま」と共に半生を歩んできた木村サトさんが、かつて母親から学んだという、葉の選び方に始まり繭を作るまでの蚕飼育の技術を、山形県上山市牧野村に移住した小川プロのスタッフに指導する。その養蚕作業を通じて彼女の人生の軌跡が照らし出される。同録8mmで記録した映像を16mmにブローアップした超文化映画。

牧野物語・峠

牧野物語・峠

1977年/43分/白黒/16mm
監督:小川紳介
撮影:奥村祐治
出演:真壁仁

「養蚕編」に続いて牧野村を舞台にした作品。東北の風土に根ざした著作で知られる山形在住の農民詩人・真壁仁の古稀を記念し、詩碑「峠」が蔵王に建立される。長回しのインタビューによって、詩人の農への思いとその個人史が披瀝される。詩人=百姓としての矜持を語る真壁への小川の親愛の情が伝わってくる、心温まる小品。

ニッポン国古屋敷村

ニッポン国古屋敷村

1982年/210分/16mm→HD
監督:小川紳介
撮影:田村正毅

山形県上山市の蔵王山中、戸数わずか8軒の古屋敷村。冷害による稲作被害を科学的に究明する前半から、村の老人たちが自らの来し方を語る後半まで、一村落を舞台に「ニッポン国」の歴史絵巻が展開する。小川らは自分たちも農業を手がけながら、被写体と深い関係を築いていく。ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。

1000年刻みの日時計ー牧野村物語

1000年刻みの日時計 牧野村物語

1986年/222分/カラー/16mm
監督:小川紳介
撮影:田村正毅
出演:田村高廣 河原崎長一郎 石橋蓮司 島田正吾 宮下順子 土方巽

小川プロ牧野村移住13年の集大成。宇宙的な広がりを感じさせる、稲の生殖の営みの官能的な描写。水田から発掘された出土品が現前させる村の古層。そして、牧野村に代々伝わる口承物語の再現は、俳優と地元住民の共演によって、ドキュメンタリーとフィクションの境界を越えていく。映画史上、類のないスケールの傑作。

京都鬼市場・千年シアター

京都鬼市場・千年シアター

1987年/18分/カラー/16mm
監督:小川紳介
撮影:牧逸郎

1987年夏、土・藁・葦・丸太で築かれた『1000年刻みの日時計』専用の劇場「鬼市場」が京都五条千本の空地に出現。1ヶ月に及んだ同作の上映風景にくわえ、劇場建設に携わった若者たちの言葉や、隣接地で行われた麿赤児・大駱駝艦「羅生門」公演の模様を織り込みつつ、祭りとしての映画上映に昂揚する関係者たちの姿を記録する。

映画の都ー山形国際ドキュメンタリー映画祭'89

映画の都 山形国際ドキュメンタリー映画祭'89

1991年/93分/カラー/16mm
監督:飯塚俊男
構成:小川紳介
撮影:大津幸四郎 加藤孝信

天安門事件とベルリンの壁崩壊に世界が揺れた1989年。その10月、第1回山形国際ドキュメンタリー映画祭に世界各地から映画人が集った。映画祭の顔として駆け回る小川。アジアの作家たちはキドラット・タヒミック起草の「映画宣言」を採択し意気を揚げる。助監督として小川プロを支えてきた飯塚俊男の監督デビュー作。

パルチザン前史

パルチザン前史

1969年/120分/白黒/16mm
製作:小川プロダクション
監督:土本典昭
撮影:大津幸四郎 一之瀬正史

関西全共闘の中心人物であった京大助手・滝田修が率いる「パルチザン五人組」の活動に迫る。大学構内で白昼行われる「軍事訓練」や、バリケード封鎖された百万遍交差点での機動隊との市街戦、そのさなか火炎瓶によって夕闇に燃え上がる車体の光景は、今なお衝撃的。土本のスタイル上の転機を画したダイレクトシネマ的傑作。

映画作りとむらへの道

映画作りとむらへの道

1973年/54分/白黒/16mm
監督:福田克彦
撮影:川上皓市

『三里塚・辺田部落』制作終盤の小川プロの面々を活写。集団による意思決定と作家性とのせめぎ合いも垣間見られる。「三里塚」シリーズで助監督をつとめた福田克彦が監督。この後、小川プロは山形へ拠点を移すが、福田は三里塚に残り、自主制作を続けていく。長らく封印されていた本作は四半世紀を経て1999年に初公開。

満山紅柿 上山―柿と人とのゆきかい

満山紅柿 上山―柿と人とのゆきかい

2001年/90分/カラー/16mm
監督:小川紳介 彭小蓮(ポン・シャオリェン)
構成:田村正毅 林良忠(ジョン・リン)

『1000年刻みの日時計』で使われずに終わった、干柿作りの工程を記録した一連の未編集フィルム。地元有志たちの依頼により、幻の「紅柿篇」を完成させるべく、小川の最晩年に師事していた中国第五世代の映画作家・彭小蓮が、遺された創作ノートを元に、追加撮影のうえ、あらたに編集。小川の没後9年に披露された。

■第2部 山形国際ドキュメンタリー映画祭小川紳介賞受賞作
※第2部の上映作品はすべてカラー

私の紅衛兵時代

私の紅衛兵時代

1993年/134分/中国/デジタル
監督:呉文光(ウー・ウェンガン)

文化大革命が始まった1966年、北京から遠く離れた田舎町で、天安門前を模した広場を見下ろす家に住んでいた10歳の少年が、その25年後に、当時の出来事を語ってもらうべく、今や学者や映画監督となった元紅衛兵たちのもとへと赴く。時間のトンネルを旅して、歴史を解明しようとする試み。2008年の改訂版を上映。

ナヌムの家

ナヌムの家

1995年/96分/韓国/16mm→デジタル
監督:ビョン・ヨンジュ

元従軍慰安婦のハルモニたち6人が共同生活する「ナヌムの家」(分かち合いの家の意)。彼女らは家事をし、デモに出かけ、戦時中の体験をぶっきらぼうに、時にはつぶやくように語り、歌い踊りながら支えあう。自らに植え付けられ、無関心な大衆によって強化された恥の感覚を克服し、強いられた沈黙を破るための闘いの記録。

鳳凰橋を離れて

鳳凰橋を離れて

1997年/110分/中国/デジタル
監督:季紅(リー・ホン)

家にあっては父に従い、嫁しては夫に従う…。家父長制的な村社会に生きる20代の娘にとって、北京へ出稼ぎに行く結婚前の数年間は、たとえ狭い部屋に4人暮らしで、厳しい労働条件でも、人生のうち最も自由を享受でき、成功の夢が見られる貴重な一時期。そんな彼女らの揺れる心情と運命との対決を至近距離から追っていく。

ハイウェイで泳ぐ

ハイウェイで泳ぐ

1998年/49分/台湾/デジタル
監督:呉耀東(ウー・ヤオドン)

30歳の男、自己破滅的で不安を抱えている。26歳の友人、カメラを持っている。ゲイでHIV感染者の友人の内面世界を撮っているはずが、カメラに映るのはふたりの濃厚な心理戦。本音と演技の境界を曖昧に、被写体であることと戯れる男は、監督を嘲笑し挑発する。撮る人と撮られる人の真剣勝負が、感情もろともに露わとなる。

夢の中で

夢の中で

1999年/26分/オーストラリア/デジタル
監督:メリッサ・リー

朝鮮戦争後、オーストラリアに新天地を求めた両親。学業としつけに厳しいその教育方針に反発し家出した娘が、7年間の絶縁を経て、映画づくりの中で、両親の知らなかった一面を再発見する。実は歌手になりたかった父、映画づくりの現場で大活躍する母…。豪州に生きる韓国移民2世の監督による、両親への和解のラブレター。

愛についての実話

愛についての実話

2001年/27分/オーストラリア/デジタル
監督:メリッサ・リー

映画祭に招かれ、韓国系アメリカ人監督についての映画を企画した監督自身が、そこでいきなり恋に落ちてしまう。しかも二人同時に。アジア系男性のコンプレックス、韓国系の男たちに対する自分の偏見、ベッドにまでカメラを持ちこむことの倫理。きわどい問題にさりげなく触れながらユーモラスに個人映像世界を展開させる。

一緒の時

一緒の時

2002年/49分/中国/デジタル
監督:沙青(シャー・チン)

農村の一家で、脳性麻痺の少年を父親がひざに抱きかかえる。喋れぬ少年は足を動かして父の言葉に返事をし、会話が進む。ひとり働き手の母親は遠くの病院にいるが、手術の費用がなく少年は衰弱していく。なすすべもなく見守る家族や村人。丁寧な撮影と抑制をきかせた編集が、写っている以上のことを伝える感動作。

チーズとうじ虫

チーズとうじ虫

2005年/99分/日本/デジタル
監督:加藤治代

余命幾ばくもない母と高齢の祖母とともに小さな田舎の町で暮らす監督。母の闘病風景、兄家族たちとの何気ない日々の交歓。散りばめられた母の姿を通して、母への愛情と家族の温もりが穏やかに醸成されてゆく。肉親の生と死を見つめ、泡沫の時を映像に綴じこめる。ナント三大陸映画祭ドキュメンタリー部門最高賞受賞

長江に生きる 秉愛の物語

長江にいきる 秉愛の物語

2007年/114分/中国/デジタル
監督:馮艶(フォン・イェン)

三峡ダム建設によって100万人以上が移住させられる。その一人、ビンアイの7年間を追う。気概に溢れ、役人とも烈しく渡り合う一方で、時に不安が口にされ繊細な横顔も覗かせる。そんな彼女の心の機微を粘り強く見つめるキャメラは、可憐な素顔を引き出し、そこに残ろうと彼女を駆り立てる土地への慈しみをすくい出す。

アメリカ通り

アメリカ通り

2008年/90分/韓国/デジタル
監督:キム・ドンリョン

米軍基地が4割の面積を占める東豆川市の一角にある「アメリカ通り」。長年そこで働く一人の韓国人女性の身体に刻まれた基地村の歴史を紐解きつつ、外国人女性たちがクラブで働き「不法就労」の摘発・強制送還が絶えない現在の姿を映す。彼女らはここで米兵や同郷の女性たちとの生活基盤を築き、未来を自らの手で切り開く。

雨果(ユィグォ)の休暇

雨果(ユィグォ)の休暇

2011年/49分/中国/デジタル
監督:顧桃(グー・タオ)

家族と遠く離れて生活する息子のユィグォが、故郷の森に戻ってきた。内モンゴルの北東、オルグヤの森に積もった雪の中、全身全霊で愛情を表現する母親。天真爛漫な彼女を小さな身体で受け止め、気遣う息子。彼は森での生活に戸惑いをみせるが、キャメラは、彼らが一緒に過ごす束の間の輝かしい時間を優しく見守っていく。

ブアさんのござ

ブアさんのござ

2011年/35分/ヴェトナム/デジタル
監督:ズーン・モン・トゥー

ヴェトナム戦争時には敵対陣営にいた村民たちが、酒を酌み交わしながら、戦時中の体験を語り合う。ブアさんは、新婚当時を振り返り、米兵から受けた拷問の話をする。後遺症を抱えるブアさんを温かく見守る近所の人々にも、それぞれの傷跡がある。彼らが日常生活のなかで語る戦争体験は、村の記憶となって映像に刻まれる。

たむろする男たち

たむろする男たち

2015年/55分/レバノン/デジタル
監督:マーヤ・アブドゥル=マラク

パリの街角の小さな店に、中東からの出稼ぎ労働者が、遠く離れた故郷へ電話をかけにくる。店主との雑談から、それぞれの日常がこぼれ落ちてくる。そして、14年ぶりにアルジェリアの家族のもとに一時帰国する男の会話と、かつて監督の父がレバノンの家族にあてた手紙が、男たちが集う空間で呼応し、郷愁の想いが時を止める。

乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動

乱世備忘 僕らの雨傘運動

2016年/128分/香港/デジタル
監督:陳梓桓(チャン・ジーウン)

2014年9月に始まった香港民主化運動である雨傘革命を、参加する学生たちの視点に立って記録し、20章に構成。警官との対峙や衝突は当然描かれるが、むしろ学生の日常会話を通して、彼らの喜怒哀楽、熱意と優しさが伝わってくる。監督自身も時々恐怖を感じながら、若者たちと警官たちの狭間に入り込み、雨傘革命に参加する。

消された存在、__立ち上る不在

消された存在、__立ち上る不在

2018年/76分/レバノン/デジタル(DCP)
監督:ガッサーン・ハルワーニ

行方不明者の顔写真、死亡扱いにされない住民票、埋め立てられた集団墓地……。レバノン内戦時に頻発していた「誘拐」によって、夥しい数の行方不明者が生まれた。35年前に監督自身が目撃した誘拐被害者の面影を手掛かりに、内戦後は名もなき死者として葬り去られた存在の痕跡が、アニメーションにより命を吹き込まれる。

ニッポン国古屋敷村

リトル・パレスティナ

2021年/89分/レバノン・フランス・カタール/デジタル(DCP)
監督:アブダッラー・アル=ハティーブ

ダマスカスにある世界最大のパレスティナ難民キャンプ、ヤルムーク地区の住民たちの日常生活を記録。反政府勢力の避難場所と見なされた同地は、シリア軍の包囲により、外部との交通が遮断され、食糧、薬品、電気の欠乏のため、多くの人命が失われるが、人々は集会や音楽によって連帯し、爆撃、強制移住、飢餓に立ち向かう。