ストローブ=ユイレの軌跡 1962-2020 第4期/上映作品解説

フォルティーニ/シナイの犬たち

フォルティーニ/シナイの犬たち
Franco Fortini/I Cani del Sinai

1976年/83分/16mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

イタリアの詩人フォルティーニが、1967年の「六月戦争」を機に執筆した政治的エセー「シナイの犬たち」を作者自身が朗読する。ユダヤ人の父とカトリックの母を持つ著者のファシズム体験と、現代における中東紛争に対する階級闘争的解釈が交錯する。

すべての革命はのるかそるかである

すべての革命はのるかそるかである
Toute révolution est un coup de dés

1977年/11分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ステファヌ・マラルメの革命的な詩「賽のひと振りは決して偶然を廃棄しないであろう」を、1871年のパリ・コミューンの闘士の最後の拠点となったペール・ラシェーズ墓地の芝生に座った、様々な言語を母語とする九人の男女が代わる代わる音楽的に朗読する。

雲から抵抗へ

雲から抵抗へ
Dalla nube alla resistenza

1978年/105分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:サヴェーリオ・ディアマンティ

イタリアの作家チェーザレ・パヴェーゼの未完の神話的対話篇集「レウコとの対話」の6篇「雲」「キマイラ」「盲人たち」「狼人間」「客」「火」を映画化した第一部と、パヴェーゼ最後の長編小説「月と篝火」を圧縮再構成した第二部からなる。

早すぎる、遅すぎる

早すぎる、遅すぎる
Trop tôt, trop tard

1980-81年/101分/16mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ(第一部)、ロベール・アラズラキ(第二部)

風景が映し出される中、第一部ではエンゲルスのカウツキー宛て書簡に基づき、18世紀末フランス農村の貧困状況が分析され、第二部では、マルクス主義的階級史観に基づき、近現代のエジプトにおける農民蜂起の歴史が画面外で語られる。

アン・ ラシャシャン

アン・ ラシャシャン
En rachâchant

1982年/8分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:アンリ・アルカン

五月革命の影響下に書かれたマルグリット・ デュラス唯一の童話「ああ!エルネスト」の映画化。7歳の小学生エルネストは登校拒否宣言をし、両親と共に小学校の教室で教師と面談する。だが教師は結局、エルネストを説得することができない。

アメリカ(階級関係)

アメリカ(階級関係)
Klassenverhältnisse

1983-84年/126分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

カフカの未完の長編小説「失踪者」(旧題「アメリカ」)の映画化。故郷を追われ、船で単身アメリカにやってきたドイツ人青年カール・ロスマンが様々な階級関係の中で挫折と抵抗を繰り返す。主要場面はハンブルクとブレーメンで撮影された

四部の提案

四部の提案
Proposta in quattro parti

1985年/40分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ

イタリア国営放送で1985年年末の深夜に放映された四部構成の番組。D・W・グリフィスの無声短篇映画『小麦の買い占め』全篇、『モーゼとアロン』、『フォルティーニ/シナイの犬たち』、『雲から抵抗へ』各抜粋で構成。

エンペドクレスの死

エンペドクレスの死
Der Tod des Empedokles oder: Wenn dann der Erde Grün von neuem euch erglänzt

1986年/132分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

フリードリヒ・ヘルダーリンの1798年執筆の未完の二幕悲劇を完全映画化。古代シチリアの詩人哲学者エンペドクレスが民衆と訣別し、自ら死を選ぶまでの物語が、シチリアのラグーサとエトナ山中腹を舞台に、晦渋な詩句によって語られる。

黒い罪

黒い罪
Schwarze Sünde

1988年/40分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ヘルダーリンの「エンペドクレスの死」の1820年執筆の第三稿の映画化。ストローブ=ユイレはこの第三稿は映画化不可能と考えていたが、ベルリン・ シャウビューネ劇団による舞台脚色版に不満を覚え、原作に忠実な映画化を決意した。

セザンヌ

セザンヌ
Cézanne

1989年/50分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:アンリ・アルカン

詩人ジョアシャン・ガスケの著作「セザンヌ」に含まれるセザンヌの発言の朗読に重ねて、セザンヌゆかりの土地やセザンヌの絵が映し出される。ジャン・ルノワール監督の『ボヴァリー夫人』の抜粋と共に『エンペドクレスの死』からの二つの抜粋の挿入もある。

アンティゴネー

アンティゴネー
Die Antigone des Sophokles nach der Hölderlinschen Übertragung für die Bühne bearbeitet von Brecht 1948

1991-1992年/100分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ベルリン・シャウビューネ劇団の委嘱による舞台演出に基づく映画。ソポクレスの悲劇「アンティゴネー」をヘルダーリンが特異な方法でドイツ語に翻訳、それを基に1948年にブレヒトが改訂した版を古代円形劇場で様式的に映画化している。

ロートリンゲン!

ロートリンゲン!
Lothringen!

1994年/21分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:クリストフ・ポロック、エマニュエル・コリノ

国粋主義的作家モリス・バレスの長編小説「コレット・ボドッシュ」の一部を用い、ストローブの生地でもある、フランス北東部ロレーヌ地方の中心都市メスの悲劇的な歴史が語られる。「ロートリンゲン」とは「ロレーヌ」のドイツ名である。

今日から明日へ

今日から明日へ
Von heute auf morgen

1996年/62分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

12音技法によるシェーンベルク唯一の時事オペラを、ミヒャエル・ギーレン指揮、フランクフルト交響楽団の演奏により映画化。リブレットはシェーンベルク夫人による。倦怠期のブルジョワ夫婦のすれ違いと和解の室内劇が滑稽に描かれる。

シチリア!

シチリア!
Sicilia!

1998年/66分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

シチリア出身の作家ヴィットリーニの長編小説「シチリアでの会話」の一部分を、序曲と六つの楽章に再構成。主人公は15年ぶりにシチリア内陸の貧しい母の家を訪ねる。彼は道中に偶然出会った人々と会話し、母に昔話を聞き、山間部の村の研ぎ屋と立ち話をする。