ストローブ=ユイレの軌跡 1962-2020 第2期/上映作品解説

四部の提案

四部の提案
Proposta in quattro parti

1985年/40分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ

イタリア国営放送で1985年年末の深夜に放映された四部構成の番組。D・W・グリフィスの無声短篇映画『小麦の買い占め』全篇、『モーゼとアロン』、『フォルティーニ/シナイの犬たち』、『雲から抵抗へ』各抜粋で構成。

エンペドクレスの死

エンペドクレスの死
Der Tod des Empedokles; oder: Wenn dann der Erde Grün von neuem euch erglänzt

1986年/132分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

フリードリヒ・ヘルダーリンの1798年執筆の未完の二幕悲劇を完全映画化。古代シチリアの詩人哲学者エンペドクレスが民衆と訣別し、自ら死を選ぶまでの物語が、シチリアのラグーサとエトナ山中腹を舞台に、晦渋な詩句によって語られる。

黒い罪

黒い罪
Schwarze Sünde

1988年/40分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ヘルダーリンの「エンペドクレスの死」の1820年執筆の第三稿の映画化。ストローブ=ユイレはこの第三稿は映画化不可能と考えていたが、ベルリン・シャウビューネ劇団による舞台脚色版に不満を覚え、原作に忠実な映画化を決意した。

セザンヌ

セザンヌ
Cézanne

1989年/50分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:アンリ・アルカン

詩人ジョアシャン・ガスケの著作「セザンヌ」に含まれるセザンヌの発言の朗読に重ねて、セザンヌゆかりの土地やセザンヌの絵が映し出される。ジャン・ルノワール監督の『ボヴァリー夫人』の抜粋と共に『エンペドクレスの死』からの二つの抜粋の挿入もある。

アンティゴネー

アンティゴネー
Die Antigone des Sophokles nach der Hölderlinschen Übertragung für die Bühne bearbeitet von Brecht 1948

1991-1992年/100分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ベルリン・シャウビューネ劇団の委嘱による舞台演出に基づく映画。ソポクレスの悲劇「アンティゴネー」をヘルダーリンが特異な方法でドイツ語に翻訳、それを基に1948年にブレヒトが改訂した版を古代円形劇場で様式的に映画化している。

ロートリンゲン!

ロートリンゲン!
Lothringen!

1994年/21分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:クリストフ・ポロック エマニュエル・コリノ

国粋主義的作家モリス・バレスの長編小説「コレット・ボドッシュ」の一部を用い、ストローブの生地でもある、フランス北東部ロレーヌ地方の中心都市メスの悲劇的な歴史が語られる。「ロートリンゲン」とは「ロレーヌ」のドイツ名である。

今日から明日へ

今日から明日へ
Von heute auf morgen

1996年/62分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

12音技法によるシェーンベルク唯一の時事オペラを、ミヒャエル・ギーレン指揮、フランクフルト交響楽団の演奏により映画化。リブレットはシェーンベルク夫人による。倦怠期のブルジョワ夫婦のすれ違いと和解の室内劇が滑稽に描かれる。

シチリア!

シチリア!
Sicilia!

1998年/66分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

シチリア出身の作家ヴィットリーニの長編小説「シチリアでの会話」の一部分を、序曲と六つの楽章に再構成。主人公は15年ぶりにシチリア内陸の貧しい母の家を訪ねる。彼は道中に偶然出会った人々と会話し、母に昔話を聞き、山間部の村の研ぎ屋と立ち話をする。

労働者たち、農民たち

労働者たち、農民たち
Ouvriers, paysans(Operai, contadini)

2000年/123分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

ヴィットリーニの未完の長編小説「メッシーナの女たち」の交響的な複数の独白からなる章を映画化。イタリアで終戦直後の混乱の中、行き場を失った労働者、農民たちがある山中で共同体を作り、苦難を乗り越え、ひと冬を越した物語が、夏の涸れ谷で語られる。

放蕩息子の帰還/辱められた人々

放蕩息子の帰還/辱められた人々
Il ritorno del figlio prodigo/Umiliati

2003年/64分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

『労働者たち、農民たち』の挿話を再利用した『放蕩息子の帰還』と、その後日譚『辱められた人々』の二部構成。後者では、山中の共同体に地主代行や元パルチザンらが訪れ、土地所有権を侵害する違法性、自給自足経済の割りの悪さを説き、共同体を崩壊させる。

ルーブル美術館訪問

ルーブル美術館訪問
Une visite au Louvre

2004年/48分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ レナート・ベルタ

映画『セザンヌ』に続き、ジョアシャン・ガスケの創作的回想録「セザンヌ」のガスケとの対話の一部を参照しつつ、セザンヌが見たであろうルーヴル美術館所蔵の美術作品を注視する。対話の形で語られるセザンヌの思弁的な絵画論が女性の声で画面外で語られる。

あの彼らの出会い

あの彼らの出会い
Quei loro incontri

2006年/68分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

パヴェーゼの神話的対話詩篇「レウコとの対話」の最後の5篇「人類」「神秘」「洪水」「ムーサたち」「神々」を映画化。古代ギリシャの神々、半神半人、森の精、死すべき運命を持つ人間らの間で交わされる対話がオリュンポスに見立てた山腹で演じられる。

ヨーロッパ2005年、10月27日

ヨーロッパ2005年、10月27日
Europa 2005 27 octobre

2006年/12分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ

ストローブ=ユイレが初めてDVを用いたシネトラクト。イタリア国営放送の委嘱により2006年春に撮られた。警察に追われ変電所に隠れていた15歳と17歳の移民少年が感電死したクリシー=ス=ボワの事故現場を撮影する。この事故が各地の暴動のきっかけとなった。