ストローブ=ユイレの軌跡 1962-2020 第5期/上映作品解説

ロートリンゲン!

ロートリンゲン!
Lothringen!

1994年/21分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:クリストフ・ポロック エマニュエル・コリノ

国粋主義的作家モリス・バレスの長編小説「コレット・ボドッシュ」の一部を用い、ストローブの生地でもある、フランス北東部ロレーヌ地方の中心都市メスの悲劇的な歴史が語られる。「ロートリンゲン」とは「ロレーヌ」のドイツ名である。

今日から明日へ

今日から明日へ
Von heute auf morgen

1996年/62分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

12音技法によるシェーンベルク唯一の時事オペラを、ミヒャエル・ギーレン指揮、フランクフルト交響楽団の演奏により映画化。リブレットはシェーンベルク夫人による。倦怠期のブルジョワ夫婦のすれ違いと和解の室内劇が滑稽に描かれる。

シチリア!

シチリア!
Sicilia!

1998年/66分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

シチリア出身の作家ヴィットリーニの長編小説「シチリアでの会話」の一部分を、序曲と六つの楽章に再構成。主人公は15年ぶりにシチリア内陸の貧しい母の家を訪ねる。彼は道中に偶然出会った人々と会話し、母に昔話を聞き、山間部の村の研ぎ屋と立ち話をする。

労働者たち、農民たち

労働者たち、農民たち
Ouvriers, paysans(Operai, contadini)

2000年/123分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

ヴィットリーニの未完の長編小説「メッシーナの女たち」の交響的な複数の独白からなる章を映画化。イタリアで終戦直後の混乱の中、行き場を失った労働者、農民たちがある山中で共同体を作り、苦難を乗り越え、ひと冬を越した物語が、夏の涸れ谷で語られる。

放蕩息子の帰還/辱められた人々

放蕩息子の帰還/辱められた人々
Il ritorno del figlio prodigo/Umiliati

2003年/64分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

『労働者たち、農民たち』の挿話を再利用した『放蕩息子の帰還』と、その後日譚『辱められた人々』の二部構成。後者では、山中の共同体に地主代行や元パルチザンらが訪れ、土地所有権を侵害する違法性、自給自足経済の割りの悪さを説き、共同体を崩壊させる。

ルーブル美術館訪問

ルーブル美術館訪問
Une visite au Louvre

2004年/48分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ レナート・ベルタ

映画『セザンヌ』に続き、ジョアシャン・ガスケの創作的回想録「セザンヌ」のガスケとの対話の一部を参照しつつ、セザンヌが見たであろうルーヴル美術館所蔵の美術作品を注視する。対話の形で語られるセザンヌの思弁的な絵画論が女性の声で画面外で語られる。

あの彼らの出会い

あの彼らの出会い
Quei loro incontri

2006年/68分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ
撮影:レナート・ベルタ

パヴェーゼの神話的対話詩篇「レウコとの対話」の最後の5篇「人類」「神秘」「洪水」「ムーサたち」「神々」を映画化。古代ギリシャの神々、半神半人、森の精、死すべき運命を持つ人間らの間で交わされる対話がオリュンポスに見立てた山腹で演じられる。

ヨーロッパ2005年、10月27日

ヨーロッパ2005年、10月27日
Europa 2005 27 octobre

2006年/12分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ ダニエル・ユイレ

ストローブ=ユイレが初めてDVを用いたシネトラクト。イタリア国営放送の委嘱により2006年春に撮られた。警察に追われ変電所に隠れていた15歳と17歳の移民少年が感電死したクリシー=ス=ボワの事故現場を撮影する。この事故が各地の暴動のきっかけとなった。

アルテミスの膝

アルテミスの膝
Il Ginocchio di Artemide/Le Genou d'Artémide

2007年/26分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ

「レウコとの対話」の1篇、エンデュミオンと見知らぬ者の対話「野獣」の映画化。監督名義はストローブ単独である。パヴェーゼ生誕100周年の2008年に公開予定だったが、2009年に延期された。出演は『あの彼らの出会い』のダリオ・マルコンチーニとアンドレア・バッチ。

ジャン・ブリカールの道程

ジャン・ブリカールの道程
Itinéraire de Jean Bricard

2008年/40分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキ

ジャン・ブリカールは1932年にロワール河近辺で生まれ、その地域で暮らし、92年に引退するまでヴェルト島の砂質採取事業の責任者だった。ドイツ占領期などの過去を振り返る彼の談話は、1994年2月24日に社会学者ジャン=イヴ・プチトーが録音したものである。

魔女-女だけで

魔女-女だけで
Le streghe, Femmes entre elles

2009年/21分/35mm版
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ

「レウコとの対話」の1篇、魔女キルケーと女神レウコテアーの対話「魔女」の映画化。仏語題「女だけで」は同じパヴェーゼ原作のアントニオーニ『女ともだち』(1955)の仏語題。ジョヴァンナ・ダッディ、ジョヴァネッラ・ジュリアーニ出演。

ジョアシャン・ガッティ

ジョアシャン・ガッティ
Joachim Gatti

2009年/2分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ

2009年7月8日、34歳の活動家、映画作家ジョアシャン・ガッティはモントルイユでデモ活動中、警官にフラッシュボールのゴム弾で撃たれ、片目が破裂し、視力を失った。本作では、事故以前の彼の写真にルソーのテクストがかぶさる。

コルネイユ=ブレヒト

コルネイユ=ブレヒト
Corneille – Brecht

2009年/80分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール

副題「ローマ、私が恨む唯一のもの」。コルネリア・ガイサーがコルネイユの「オラース」第4幕第5場と「オトン」の短い一節を読む。その後、ブレヒトのラジオ劇「ルクルスの審問」が読まれる。編集の異なる3ヴァージョン上映。

おお至高の光

おお至高の光
O somma luce

2009年/18分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ

ダンテ「神曲」天国篇・最終第33歌、第67節「おお至高の光」から最後までを、ジョルジョ・パッセローネが朗読する。冒頭の黒味にシェルヒェン指揮、エドガー・ヴァレーズ「砂漠」初演ライブ演奏(1954)が流れる。

ある相続人

ある相続人
Un Héritier

2011年/22分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ、クリストフ・クラヴェール

バレスの「東方の砦」三部作の第一作「ドイツに仕えて」の抜粋に基づき、アルザス守護聖人の修道院がある聖オディル山でデジタル撮影。ストローブ自らロレーヌ人に扮し、ジョゼフ・ロトネール扮するアルザス青年と対話する。

ジャッカルとアラブ人

ジャッカルとアラブ人
Schakale und Araber

2011年/11分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール

フランツ・カフカの寓話短編の映画化。音楽はジョルジュ・クルターグ「カフカ断章」作品24(1986)第四部第39曲「またもや、またもや」。出演はバルバラ・ウルリヒとジョルジョ・パッセロー二。ストローブが声のみ出演。

慰めようのない者

慰めようのない者
L’Inconsolable

2011年/15分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ、クリストフ・クラヴェール

「レウコとの対話」の1篇の映画化。吟遊詩人オルペウスを八つ裂きにする運命にあるバッケー(酩酊する狂暴なトラーキアの女)の一人にジョヴァンナ・ダッディ、最愛の妻エウリュディケーを亡くしたオルペウスにアンドレーア・バッチ。

母


La madre

2012年/20分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール

「レウコとの対話」の1篇に基づく。女狩人アタランテーを含む勇士らと猪狩りに参加した王の息子メレアグロスは、母親アルターアーの呪いで殺された。ヘルメースにジョヴァンナ・ダッディ、メレアグロスにダリオ・マルコンチーニ。

ミッシェル・ド・モンテーニュのある話

ミッシェル・ド・モンテーニュのある話
Un conte de Michel de Montaigne

2013年/33分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール

モンテーニュ学者アルマンゴーにより1934年にパリに寄贈され、ソルボンヌ大学北のポール・パンルヴェ小公園にあるポール・ランドフスキ作のモンテーニュの坐像の近くで、『エセー』第2巻第6章「実習について」がバルバラ・ウルリヒにより朗読される。

ヴェネツィアの死(『ヴェネツィア70:リロードされた未来』の1篇)

ヴェネツィアの死(『ヴェネツィア70:リロードされた未来』の1篇)
La Mort de Venise (Venise 70 – Future Reloaded)

2013年/2分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ

ヴェネツィア国際映画祭の第70回目を記念する連作動画『ヴェネツィア70:リロードされた未来』の1篇。バレスの旅行記「ヴェネツィアの死」第3章「アドリア海の水平線上に漂う影たち」の頁の一部とメモが映し出される。

影たちの対話

影たちの対話
Dialogue d'ombres

2014年/28分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:レナート・ベルタ

ストローブ=ユイレが1954年に映画化を構想したという、ベルナノスの1928年の同名小説に基づく。一組の男女あるいは彼らの影が木陰で対話する。パリで稽古された後、ノルマンディのフレール近郊で撮影された。フランソワーズ役はコルネリア・ガイサー、ジャック役はベルトラン・ブルデールが演じる。

ヴェネツィアについて(歴史の授業)

ヴェネツィアについて(歴史の授業)
À propos de Venise

2014年/24分/デジタル
監督:ジャン=マリー・ストローブ
撮影:クリストフ・クラヴェール

河岸の木と枝の長廻し2ショットに重ね、バレスの旅行記「愛と悲しみの聖地」(1903)の1篇「ヴェネツィアの死」第3章「アドリア海の水平線上に漂う影たち」の一節が読まれる。ナポレオン、ゲーテ、シャトーブリアンの歴史的記憶。最後に『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』(1968)よりカンタータ BWV205のアリアが演奏される。