フレデリック・ワイズマンの足跡 Part.1 1967年-1985年 上映作品解説

チチカット・フォーリーズ

チチカット・フォーリーズ
Titicut Follies

1967年(84分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ジョン・マーシャル

マサチューセッツ州ブリッジウォーターにある精神異常犯罪者のための州立刑務所マサチューセッツ矯正院の日常を克明に描いた作品。収容者が、看守やソーシャル・ワーカー、心理学者たちにどのように取り扱われているかがさまざまな側面から記録されている。合衆国裁判所で一般上映が禁止された唯一の作品である。永年にわたる裁判の末、91年にようやく上映が許可された。

高校

高校
High School

1968年(75分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:リチャード・ライターマン

フィラデルフィア郊外にある“模範的な”高校の日常を追っている。朝のホームルーム、授業の風景、生活指導、父母を交えた進路相談、男女別に行われる性教育や家庭科の授業、クラブ活動……。高校を構成する教師、生徒、親、管理職たちの関わり合いの中で、イデオロギーや価値観が醸成され、伝えられていく様が映し出される。

法と秩序

法と秩序
Law and Order

1969年(81分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

ミズーリ州カンザス・シティの、最も犯罪率の高いアドミラル・プールヴァール管轄区にある警察の様々な活動を追っている。売春の摘発、犯罪を繰り返す未成年犯罪者や拳銃を所持する窃盗犯の逮捕など緊迫した状況を追う一方で、老女のバッグ探しや迷子の保護、養育権をめぐる夫婦のいさかいの仲裁など、市民生活のあらゆる側面に関わる警察の活動をとらえている。

病院

病院
Hospital

1969年(84分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

ニューヨーク市、ハーレムにある大きな都市病院、メトロポリタン病院の活動を緊急棟と外来患者診療所に焦点を当てて記録した作品。都市病院に運びこまれる様々な患者とその処置をする職員とのやりとりを通して都市が抱える多くの問題を浮き上がらせる。

基礎訓練

基礎訓練
Basic Training

1971年(89分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

ケンタッキー州フォートノックスの基地における入隊志願者たちを一人前の兵隊に仕立てるための基礎訓練の様子を描く。ベトナム戦争の最中に撮影された。行進、格闘などの教練の場面、自動小銃や銃剣の使い方、イデオロギー教育と洗脳に対抗する訓練…。まだ子どもっぽさの抜けない若者が兵士に仕立て上げられていく。

エッセネ派

エッセネ派
Essene

1972年(86分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

ベネディクト会エッセネ派の僧院の日常を追う。個人の欲求と組織としての論理の対立、規則、労働、信仰、価値、愛、そして祈り。日々の生活の中で修道士たちが直面する問題は、組織というものが抱え込まざるをえない共通の問題であることがみえてくる。

少年裁判所

少年裁判所
Juvenile Court

1973年(144分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

法の一線を越えてしまった少年たちに目を向けた一篇。訴追側や裁判官だけでなく、少年側に立つ弁護士やソーシャル・ワーカーにとってさえ、各事件はあくまで膨大な日常業務の流れの中にあるという事実が冷静に積み重ねられてゆく。効率よく次々に捌かれてゆく事件の合間で、裁かれる少年の切実な表情が目を射る。

霊長類

霊長類
Primate

1974年(105分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

霊長類に関する生物医学的、行動学的研究における先駆的な施設として知られるヤーキーズ霊長類研究所で撮影。猿を使った様々な動物実験が、その研究の目的や意義は殆ど説明されないままに、次々と映し出される。虐待と見誤りかねない数々の実験の映像は、故意に研究所を貶めたとする人々と、生体実験に反対する人々との間に激しい議論を巻き起こした。

福祉

福祉
Welfare

1975年(167分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

ニューヨーク市のウェイヴァリー福祉センターを舞台に福祉行政のありようを描いた作品。住宅問題、失業問題、医療問題、幼児虐待などの児童問題、老人問題など、多様な問題と係わる福祉システムの性質を検証し、福祉活動家の置かれている状況、受益者の問題、福祉の本質などを浮かび上がらせる。

肉


Meat

1976年(113分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

野の草を食む「牛」はいかにして「肉」となるか。牛がトラックで牧場の外へと連れ出されてから、巨大精肉工場で製品化され、市場に送り出されていくまでの全工程を記録する。「牛」が徹頭徹尾「肉」として扱われるこの場所で、無数に細分化された各工程が一分の狂いもなく進行する過程を、的確な映像と編集のリズムによって映し出していく。

パナマ運河地帯

パナマ運河地帯
Canal Zone

1977年(174分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

永年、事実上アメリカの植民地だったパナマ運河地帯。1977年にカーター大統領は新運河条約を締結し、運河を米パ両国で共同管理することを決めた。政府関係者、軍人、ビジネスマンなど様々な人々が行き交うこの地帯で暮らすアメリカ人の生活が描かれる。同地帯は1999年12月31日にパナマに完全返還された。

シナイ半島監視団

シナイ半島監視団
Sinai Field Mission

1978年(127分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ウィリアム・ブレイン

エジプトとイスラエルの間のシナイ緩衝地帯で、監視の任務を遂行する米軍の小隊。彼らは時にこの地を西部劇の「西部」になぞらえて無為をやり過ごす。「アメリカの外のアメリカ」として「アメリカらしさ」が奇妙に凝縮されたこの場所を、ワイズマンは広大な砂漠のごく小さな一点として映像に収めている。

軍事演習

軍事演習
Manoeuvre

1979年(115分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ジョン・デイヴィー

東西対立時代に毎年行われていたNATOの秋季大演習に密着取材し、その全貌を記録した作品。この作品の撮影が行われた1978年の演習は北極海から地中海までの加盟国全域に渡る大規模なものだったが、特に演習が集中したのは旧東ドイツとの国境近くであり、第三次世界大戦を想定したデモンストレーションと見なされ、国際的に大きな波紋を呼んだ。

モデル

モデル
Model

1980年(129分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ジョン・デイヴィー

ニューヨーク市でも最高のモデル事務所であるゾリ・マネージメント社を舞台に、CMやファッション・ショー、雑誌、広告写真、デザイナーズ・ブランドなどの仕事をする男女のモデルたちを追っている。彼らを取り巻くカメラマンやエージェント、撮影スタッフやデザイナーなどの姿を通してファッション・ビジネス界の有様が描かれている。

ストア

ストア
The Store

1983年(118分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ジョン・デイヴィー

1907年の開店以来、高級百貨店として揺るぎない地位を築いてきたニーマン=マーカス百貨店テキサス州ダラス本店。1982年のクリスマス・シーズンにおけるニーマン=マーカスを舞台に、訪れる客や接客する従業員、華やかな売場の舞台裏で働く人々の姿が映し出される。

競馬場

競馬場
Racetrack

1985年(114分)
監督:フレデリック・ワイズマン
撮影:ジョン・デイヴィー

サラブレットの競馬場として世界でも指折りのニューヨークのベルモント競馬場についてのドキュメンタリー。厩舎での馬の出産から始まり、調教師や飼育係、馬主、獣医たちの活動、レースをとりまく人々、観客たち、騎手たち、この競馬場の経営を支えるオーナーたちの巨大なパーティとその舞台裏まで、競馬というビジネスのあらゆる側面が映し出される。