鏡の中の亀裂

Crack in the Mirror 1960年(97分)

監督/リチャード・フライシャー

脚本/マーク・コンフィールド 撮影/ウィリアム・C・ミラー 音楽/モーリス・ジャール

出演/オーソン・ウェルズ(ハゴラン/ラモリショー) ジュリエット・グレコ(エクスポニーヌ/フロレンス) ブレッドフォード・ディルマン(ラーニエ/クロード) アレクサンダー・ノックス(弁護士)

(あらすじ)
 これは、パリを舞台としたつ2の三角関係の物語である。
 建築現場で仕事中の技師ハゴランのもとへ、妻エクスポニーヌが弁当をもってきた。彼女は同じ現場でクレーンを操るラーニエという男と、意味ありげな視線を交わす。おりしもハゴランが堅穴に落ちてしまい。ラーニエは危うくクレーンをかわすこととなる。その後家に落ち着いたハゴラン夫婦は、ラーニエの見ている前で口論となり、ハゴランはイクスポニーヌのことを殺してやる、と激しく罵る。
 一方弁護士のラモリッシュは、親しい者たちを招いてパーティを開いていた。席上で妻のフロレンスにブレスレットを贈るラモリッシュ。そして、その光景見つめている部下、クロフォードの姿があった。ほどなくラモリッシュは、胸に息苦しさを感じて倒れてしまうが、医師の診断によれば大したことはないようだ。そんな夫を知る目にフロレンスは、人目を盗んで現れたクロードと共に、別室に入っていく。その頃エスクポニーヌの方も、ラーニエを家に招き入れていた。2人は子供たちが寝ている部屋で激しく愛し合ううちに、ハゴランの殺害を考えるようになる。そしてエクスポニーヌは火かき棒を持ち出し、隣室で寝ている夫に殴りかかるが、打ち損じて目を覚まさせてしまい、もみ合いとなってしまう。その様子に気付いたラーリエも加わり、2人はようやくハゴランを絶命させる。
 翌朝、何事もなかったかのように子供たちを送り出したエクスポニーヌではあったが、早くもラーニエとの間に反目が生じる。彼は殺害の責任は彼女にあると言い、彼女の方は共犯だと主張するのである。だが、ともかくも死体を処理しなければならず、彼女は鋸を買ってくる。この工作が功を奏すかに見えたが、ほどなく2人は逮捕されてしまう。取り調べは別々に行われ、エクスポニーヌは大した考えもなく、調書にサインをする。
 フロレンスの方はクロードの家を訪ねてきていた。ところが、ベッドに彼女を招き入れたところで、ドアにノックの音が響く。慌てて彼女を別室に隠して出てみると、それは法廷への召喚状であった。クロードは、エクスポニーヌの弁護を担当することになったのである。そこでクロードは、彼女が保護されている修道院へと出向き、裁判の見通しを伝える。どうもラーニエは、エクスポニーヌとは異なった証言をしているらしいのだ。
 この事件の弁護には、クロードの他にもラモリシェが当たることになっており、そのための打合せが行われる。しかしこの事件について、ラモリシェはエクスポニーヌにこそ非があると考えており、クロードとの間には微妙な見解の相違が認められるのだった。
 裁判が始まるまでの間、ラモリシェ夫妻はかねてから予定していたモンテ・カルロへの旅行に出かける。クロードの方は、2人が旅立とうとする駅の食堂で、報道関係者から今度の事件は大きな注目を受けるはずだという話を聞き、新たな意欲をかき立てられていた。
 裁判の期日が近づいたある日、エクスポニーヌとラーニエの双方の調書確認が行われるが、やはり彼は、殺人の責任を彼女一人に被せていた。フロレンスはクロードに、モンテ・カルロから電話を入れるが、途中で夫が来たために中断させられる。ラモリシェの方は、電話を終えるやいなや、パリに戻ると言い出す。なぜならパリでは、2人の容疑者による立会いの元、現場での殺人事件の再現が行われようとしていたのだった。最初のうちこそ問題はなかったが、実際の殺人に至るところで、2人の言い分は激しく対立する。折しもそこへラモリシェが駆けつけ、2人の様子を見つめる。
 この現場検証により、自分の置かれている立場を知ったエクスポニーヌは、修道院を訪ねてきたクロードに、ある告白をする。その後バーで待ち合わせていたフロレンスに、クロードはそのことを、嬉しそうに語って聞かせる。
 いよいよ裁判が開始され、エクスポニーヌとラーニエの間に激しいやり取りが展開される。だが最後に、彼女は驚くべき証言をする。鋸を使ったのはラーニエであり、彼のために嘘をついていた、と。そしてクロードは彼女の証言を補強すべく、修道院のシスターを呼び、大きな得点を稼ぐ。
 これでクロードの成功は間違いないと思われ、ラモリシェの見解も変わったかに見えたが、弁護側の最終陳述の直前、彼はクロードが妻フロレンスと抱き合っているのを目撃してしまう。この思いもよらなかった真実を目の前にし、ラモリシェは大きなショックを受ける。そして迎えた最終陳述で、思わず彼は、エクスポニーヌを激しく非難する弁舌を展開する。それは、あたかも自分の妻であるフローレンスに向けられているかのようだった。
 その結果下された判決は、ラーニエの懲役6年に対してエクスポニーヌは終身刑という、実に対称的なものであった。クロードは、裏切り行為だと激しくラモリシェを攻めたてるが、彼は心臓マヒを起こし、息をひきとってしまう。
 エクスポニーヌとラーニエが別々に乗った、2台の護送車が通りを進んでいく。その前にあるベンチに座るクロードとフロレンス。クロードの誘いを断った彼女は、彼とは逆の方向へと歩き去って行くのであった。