原作はアラブ圏で初めてノーベル賞を受賞した作家ナギーブ・マハフーズ(1911〜)が79年に発表した同名の中編小説。悪人を主人公にして暗に既存の体制や価値観を批判するのは彼がよく使う手法だが、この作品では、政府の経済開放政策を隠れ蓑に荒稼ぎする巨悪と、それに空しく立ち向かう正義を描いている。
エジプトは70年代後半に、それまでの社会主義的な政策を変換し、西側の資本の導入を目指す経済開放政策を実施した。その結果、資本と物資が流入し、人々は一見豊かになったように見えた。しかし現実は、それまでにあった貧富の差がさらに拡大し、それまで闇でうごめいていた商人が表舞台に現れて、新しい特権階級を形成することになった。この作品は、そんな経済開放政策の負の側面を描いた先駆的作品とされる。その後も同様のテーマで、『バス運転手』(83)や『ある市民の帰国』(86)などの、エジプト映画の名作が作られていく。