モンテ・クリストの妻

Wife of Monte Cristo 1946年(83分)

監督/エドガー・G・ウルマー

脚色/フランツ・ローゼンワルド エドガー・G・ウルマー(アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』より) 脚本/ドルカス・コクラン 製作監修/オイゲン・シュフタン 音楽/ポール・デッサウ 撮影/アドルフ・エドワード・カル 美術/エドワード・G・ジュエル 編集/ダグラス・バジエ 衣装/モナ・バリー 共同製作/ジャック・D・グラント

出演/ジョン・ローダー レノール・オベール チャールズ・ディングル フリッツ・コートナー

(あらすじ)
 1832年、パリ。警察長官とダングラール男爵が、最近パリを騒がす覆面の怪盗“復讐者”について話し合っている。長官は“復讐者”の正体を「世界一裕福な人間の一人、モンテクリスト伯爵だ」と推測している。パリに疫病の流行する中、長官とダングラールは薬商人メイヤールと組んで、実は毒性のあるイカサマ薬を政府認可でバラ撒いて暴利を貪っている。夜の郊外の街道筋で政府の貨物馬車が襲われ、積まれた薬と現金が奪われる。護衛の警官は“復讐者”の左手に傷を負わせたと長官に報告する。
 モンテクリスト伯爵邸では、伯爵夫人がフェンシングの練習中だ。そこへ“復讐者”の覆面をした伯爵が帰宅する。伯爵は妻に仕事を無事に果たしたと報告するが、妻は彼が左手に怪我をしていることに気づく。そこへ警察長官から翌日の晩餐会への招待状が来る。伯爵は手の傷から自分を“復讐者”だと確認しようという長官の意図を見抜き、妻に代りに出席を頼み、パリを離れ別荘に行くことにする。彼は執事で副官のジャック・アントワーヌに秘密のペンダントを託しパリの反政府地下活動のメンバーたちへの伝言を頼む。
 地下活動では“復讐者”が突然姿を消したのは自分たちを見捨てたからではと不安がる。ジャック・アントワーヌは夫人に、伯爵が本当は何者で、何が目的なのか、せめて自分だけでも知らないと自信を持って彼らを説得できないと訴える。夫人はここだけの秘密だと断って、伯爵がジャック・アントワーヌに託したペンダントの中にはナポレオンの肖像と、「我が忠実なる友エドモン・ダンテスへ」との献辞があることを明かす・・・・・・。
 ナポレオンが政権を追わた頃、ナポレオン派だったダンテスは、ダングラール、メイエールの父、長官の父の3人に無実の罪を着せられ、牢獄島シャトー・ディフに投獄された。そこでの14年間、ダンテスは隣の牢のファリア神父を師と仰いで自らを鍛えた。神父は獄死する間際に、彼に常に貧しい者たちの味方となることを誓わせ、モンテクリスト島の隠し財宝のことを教えた。神父の遺体になりすまして奇跡的に脱獄したダンテスは、財宝を手に入れモンテクリスト伯爵となり、抑圧されたパリの民衆のために“復讐者"となったのだ。
 長官邸の晩餐会で、伯爵夫人は長官とメイヤールの二人を魅了する。長官は“復讐者”の部下ジャック・アントワーヌが逮捕できたので、翌日処刑するつもりだと話す。翌日牢獄ではアントワーヌが欠席裁判で有罪になる。また彼は獄中で看守に伯爵の素性を秘めたペンダントを奪われてしまう。だが処刑場に向かう護送馬車を“復讐者"が襲い、ジャック・アントワーヌを救出する。長官は伯爵の別荘を見張っていた部下から、伯爵は一歩もそこを動いていないと報告され、困惑する。
 ジャック・アントワーヌを救出した“復讐者"は、伯爵夫人だった。この第二の“復讐者"はメイヤールの妻の手に渡っていた伯爵のペンダントも無事に取り戻すが、メイヤール夫人はその直前にペンダントの中を見ていた。メイヤールはペンダントが元々ジャック・アントワーヌから奪れたものであり、それがまた盗まれたのだから、自分に支払いの義務はないと言う。長官とダングラールにはメイヤールへの不信を抱き、彼の管理する三人のインチキ薬に関する収支のなかに50万フランの使途不明金があることを問い詰め、メイエールは一時借りただけだと答えざるを得ない。
 金に困ったメイヤールは、モンテクリスト伯爵夫人に有利な投資だと偽って20万フランを借りる。夫人は彼から巧妙に、翌朝政府の馬車で薬がパリに運ばれて来ること、そしてこの事業の共同出資者が長官とダングラールであることを聞き出し、金を渡す。すぐさまメイエールは地下組織に逮捕され、人民裁判にかけられる。証人として偽薬のため盲目になった子供が出廷し、彼の有罪が確定、翌日までにフランスを出国しなければ殺すと宣告される。
 メイヤールはこのことを仲間の二人に報告するが、当然彼らは信じず、金を要求する。メイヤールは伯爵夫人に確かに金を借りた、彼女に聞いてくれと言う。長官は地下組織に送り込んだスパイから、“復讐者"が翌日森で輸送馬車を襲うことを知らされる。
 翌朝“復讐者"が政府の馬車を襲撃するが、治安警察の待ち伏せに遭い4人の貴重な部下を失い、3人が重傷を負った。夫人は組織にスパイが入り込んでいると見抜き、その夜には部下たちがスパイを捕らえた。その頃夫人は長官と共にモンマルトルの歓楽街に向かっていた。地下の居酒屋で、長官は夫人の前でメイヤールを問い詰め、彼は夫人にすがるが、彼女は金を貸したことなど知らないという。パニックになったメイヤールは、居酒屋にいるのが自分を裁いた人民裁判の人々であることに気づき愕然とし、屋根の上に逃げ出す。そこへ“復讐者"が現れ、メイヤールは天窓から落ちて転落死する。長官は彼が落ちた窓の側に、夫人のつけているのと同じ香水の匂いがするハンカチを拾う。夫人はいつのまにかテーブルに戻っており、長官はそばに落ちていたのを拾った振りをして、ハンカチを彼女に渡す。何の疑いもなくハンカチを受け取ってしまった夫人は、長官に逮捕される。
 “復讐者”から「次はお前だ」とのメッセージを受け取ったダングラールが、長官のところに駆け込んで来た。長官はもう心配ないと笑う。二人は例のペンダントの中身を見ていたメイヤール夫人の言葉から、モンテクリスト伯爵の招待をエドモン・ダンテスと疑い始めていた。その伯爵あるいはダンテスをどう扱い、彼の財産をどう分けるかをめぐって二人は激しい口論になり、席を立とうとしたダングラールを長官が射殺する。
 ジャック・アントワーヌが別荘の伯爵に夫人の危機を伝える。伯爵は別荘を取り巻く警察の包囲網を突破してパリに急ぎ、途中で地下活動のメンバーである鍛冶屋ミショーの家に逃げ込む。だがそこには彼の娘だけがいた。男は夫人の失敗した馬車襲撃の時に命を落としていたのだ。娘に責められて伯爵は初めて妻が自分の代わりに戦っていたことを知り、鍛冶屋の娘に自分の正体と、妻がいかに自分を救ってくれたかを語る。娘はその話を理解し、自らを犠牲にしてまで彼の逃走を助ける。
 長官は“復讐者”と連帯した市民が蜂起することを恐れ、パリに戒厳令を敷いた。パリに潜入した伯爵はジャック・アントワーヌら部下たちに、真夜中12時きっかりのオルレアン行きの荷馬車に夫人を匿ってパリを脱出するよう指示し、単身牢獄に向かう。夫人は自分が犠牲になるからあなたは理想を追って戦い続けてくれというが、伯爵は私はお前なしには生きられないと言い、長官の邸宅に向かう。彼は帰宅した長官を剣で脅し、伯爵夫人の釈放命令を出させる。伯爵夫人は無事釈放され、夫を待つと言うが部下たちに説得され脱出を準備する。一方長官は機転を利かして伯爵にインク取りの砂を投げ付けて彼の剣先から逃れ、こうしてついに二人の決闘を始める。「貴様がエドモン・ダンテスだな」という長官に、伯爵は「そう、私こそエドモン・ダンテスだ」と答える。激しい戦いの末、伯爵は長官を倒す。危機一髪で夫人の隠れた荷馬車に追いつく。郊外に出て、伯爵は馬車の御者たちを追い返す。夫妻は馬に乗り換え、市民たちのために再びパリに戻ってくることを誓い合い、去って行くのだった。