ドクター・ブル

Doctor Bull 1933年(78分)

監督/ジョン・フォード

脚色/ポール・グリーン 脚本/ジェーン・ストーム 撮影/ジョージ・スナイダーマン

出演/ウィル・ロジャース(ドクター・ブル) ヴェラ・アレン(ジャネット・カードメイカー) マリオン・ニクソン(メイ・トッピング) ハワード・ラリー(ジョー・トッピング) バートン・チャーチル(ハーバート・バニング) ルイズ・ドレッサー(バニング夫人) アンディ・ディバイン(ラリー) ロシェル・ハドソン(ヴァージニア・バニング)

(あらすじ)
[冒頭字幕部分] 赤児たちをこの世の隣人の列に加え、この世を去らんとする者の旅立ちを出来うる限り遅らせる、医師ジョージ・ブル。彼は人々に良識を処方し、自らは少ない見返りで満足する。患者たちは彼を我らの医者と慕う。

 片田舎の町、ニューウィントン。電信電話局では交換手メイとその同僚が大学に通う裕福なバニング家の娘、ヴァージニアのことを噂している。立ち寄った噂ばなし好きの老嬢イーリーさんはブルと未亡人ジャネット・カードメイカーの仲を揶揄する。
 伯母と暮らしているブルは家から教会に向かう。年のせいか伯母はしょっちゅう彼のことをいまはもう亡い自分の息子ケネスと間違える。ブルは教会で、親しくしているジャネットと軽口を叩くが、その関係を彼女の実家バニング家と婚家カードメイカー家の女性陣らに牽制される。
 その帰りに電話交換手メイの夫、ジョー・タッピングを診療する。彼は転落事故で脚が麻痺している。ブルはヤケになりかけている彼らを励ます。「ほら、タバコをやるよ。吸っちゃいかんぞ」
 家に帰るやいなやジャネットの家の牛の診療を頼まれる。牛を診察し、薬と手当てを処方した後ジャネットとくつろぐ。……一方そのころブルを心良く思わないバニング家の女性たちとイーリーさんらが知人の娘マミー・タルボットの診療を求めて彼を待っていた、が、なかなか帰ってこない。「きっとジャネットのところにいるんだわ。なにをしてるんだか」
 電話がかかってきてブルは診療に向かうが、途中イタリア系一家の長ルイに呼び止められ、彼の妻マリエッタのお産に立ち会う。遅れて診たマミー・タルボットはもともと重病のせいもあり、救えなかった。しかし、バニング家の人間たちはブルを責める。
 疲れて町の食堂に行くといつもブルにかまってもらいたがる店員のラリーがまたも体調の不良を訴えるが、ブルは一喝する。案の定若い娘の一団が来店すると元気に応対するラリー。そこでブルはバニングに出会う。バニングの経営する工場の排水が町の衛生状態にとってよくないと注意するが、バニングは聞き入れない。
 夜、医学書を研究し、ジョーの脚の麻痺の治療を考える。伯母はまた彼をケネスと間違える。やっと寝ようとするとまた「体調不良のラリー」がやってくる。
 バニング家の娘、ヴァージニアの様子がおかしい。バーで荒れている。介抱を申し出たブルを拒絶するが、目の前で自動車事故を起こす。治療を受けながらの悩み相談。親が決めた議員の息子である婚約者よりも、大学で知り合った花形フットボール選手のほうが好きで、恋人関係である。しかし、その彼とケンカしてしまって、という。ブルは彼女に、自分の気持ちに素直になれ、とアドバイスし、フットボールの彼氏、ジョージ・ミューラーに電話までして仲直りさせる。
 数日後、ヴァージニアとミューラーが結婚。新聞で読んで喜ぶブル、憤慨するバニング家。相手がドイツ系であるのと、ブルがとりもったらしいことも気にいらない。……ブル家の家政婦さんの体調が悪い。たいしたことではないと思うが。……いつもブルの悪口を言い立てるイーリーさんが定期的に受け取る小包は酒らしい。……とある家庭の子供の病気。徹夜の治療でどうやら峠を越した。家族に笑みが戻る。
 ……多忙なブルに代わって患者の見舞いに行った伯母が、あれはチフスだ、あたしゃ匂いでわかる、と言う。始めは一笑に付したブルだったが、どうやらほんとにチフスで、広まりつつあると気づく。彼はチフスの疑いのある人々の血液分析を自分よりいい設備を持つ友人の医者に依頼。また、そこでジョーの症状について相談する。最新鋭の設備を有する友人医師もジョーの脚については絶望的な見解。たがブルはあきらめていない。その帰りにジャネットの牛を診て、牛の脚の麻痺が治っていることに気づく。その処方を応用した薬をつくり、ジョーに注射する。
 電信電話局に血液の分析結果が届く。やはりチフスだ! 原因はバニングだが人々はブルを責める。
 児童に予防接種をするブル。彼は自分が面倒をみた子供たちのことをひとりひとりよく憶えている。児童の父親が来て、ブルが町の衛生管理責任者の立場をクビになるだろうと予告する。
 教会に人々が集まり、ブルを糾弾する集会が始まる。ジャネットがブルを弁護し、彼女の実兄バニングが利益のため衛生管理をおろそかにし、それを改善しようとするブルを排除しようとしたことを暴露するが、多くのひとびとはその発言を恋愛感情によるものだと解釈し、信じず、あざ笑う。彼をクビにしようとする者たちと、支持する者たちのあいだで論争。そこに本人が現れる。彼はケンカ腰に「そっちの言うことは噂だ。俺はあんたらの秘密を知っとるぞ!自分からは辞めん!俺がいなくなってから車に轢かれてホエヅラかくな!」などと言い捨てて去る。多数決でクビが決定される。
 ジョーを見舞うブル。そこにジャネットがやってくる。彼女に励まされても、もうブルは医者をやめるつもりだ。そんなとき、治療の効果が出てジョーがはっきりと快方に向かう。ジャネットの家でブルは彼女に感謝し、しかし、会うのはこれっきりにしようと告げる。そのままケンカ別れしそうになるふたりだが……。そして、またも招かれざるラリーの来訪。今度の彼の悩みは体調ではなく……
 数日後、新婚旅行に出かけるブルとジャネットは、ジョーを治した新薬とブルの功績がニュースになっていることを知る。旅立つふたりを回復したジョーとメイが見送っている。