恐怖のまわり道

Detour 1945年(68分)

監督/エドガー・G・ウルマー

原案・脚本/マーティン・ゴールドスミス 音楽/アードディ 撮影/ベンジャミン・H・クライン 美術/ウィリアム・A・カリハン、ジュニア 編集/ジョージ・マグアイア 製作/レオン・フロムケス 製作補佐/マーティン・ムーニー

出演/トム・ニール アン・サヴェージ クラウディア・ドレイク

男は恋人を追って、アメリカ大陸を横断するヒッチハイクの旅に出る。次々と災いに見舞われていく男の運命はいかに。フィルム・ノワール史上の名作。

(あらすじ)
 ネヴァダ州のハイウェイ。ヒッチハイクした車から降りた男(トム・ニール)が、道路際のダイナーに入る。トラック運転手が北に行くのなら目覚まし役に一緒に乗ってくれと誘うが、男は東に向かってるからと断る。彼は西から来たらしい。彼はトラック運転手がかけたジュークボックスの音楽が気に入らず、ケンカになる。
 男の独白「この忌ま忌ましい曲が頭にとり憑いて離れない・・・・・・ 何かを忘れたいと思ったことはないか? 記憶の一部がすっぽり闇に消えてくれればと思ったことは・・・・・・ それは不可能だ。住む場所を変えることはできる。でも何時か、憶えのある香りが漂い、誰かが口にした一言、くちずさんだ歌が、記憶を呼び戻す。 『あなたがそんなに私を愛しているなんて信じられない』か・・・・・・ 以前の俺はこの曲が好きだったはずだ・・・・・・」
 彼の名はアル。ついこのあいだまでニューヨークの安クラブでピアノを弾き、歌手のスー(クラウディア・ドレイク)と恋仲だった。だがスーは成功への夢を捨てられず、アルの反対を押し切ってハリウッドに行ってしまう。アルはハリウッドで苦労しているスーに電話をかけ、そっちに行くから結婚しようと告げた。
 金のない彼はヒッチハイクで旅をした。だが車はめったに止まらず、暑く、辛い旅だ。運よくハスケルという羽振りのいい男がアルを乗せてくれた。彼はその手首の大きな掻き傷に気づく。前に乗せた女にやられたのだとハスケルは笑いながら応ずる。彼は妙に愛想よく、自分もロサンゼルスに行くから一緒に行こうという。ハスケルは金のない彼に食事までおごってくれる。ハスケルが眠り、代わって車を運転をしながら、彼は幸せを感じていた。雨が降り始め、アルは車の幌を閉めるためハスケルを起こそうとする。だがドアを開けると、ハスケルの死体が転がり落ちた。ハスケルがいつの間にか死んでいたなんて、誰が信じて来れるだろう? 彼にはハスケルの死体を埋め、その服を着て彼に成り済ますしかない。金がなければ怪しまれると思うと、ハスケルの財布も着服するしかない。中身は700ドル。ハスケルはどうも、アルが思っていたほど成功した人物ではなさそうだ。
 ハスケルを装って旅を続けるアルは、無事にカリフォルニア州に入ったところで、ガソリンスタンドに立っていた女を乗せてやる。ヴェラ(アン・サヴェージ)と名乗るその女はしばらく眠り、そして突然目を覚まし、この車の持ち主の死体はどこだと彼を問い詰める。彼は悟ったーハスケルの掻き傷はヴェラの仕業だったのだ。 「どこへ向かおうが、運命が足を掬おうと待ち構えている」アルの話を一笑に付したヴェラは、ハリウッドに到着したら車を乗り捨てるつもりでいた彼に、それでは足がつくだけだ、唯一の解決策は売り飛ばして別人の名義にすることだけだと断ずる。ハリウッドに着くとヴェラは有無を言わさず彼にハスケル夫妻と名乗ることを強要し、その名義でアパートを借りる。ヴェラは彼を肉体的にも誘惑しようとするが、彼は拒否する。だがその彼も、まさかスーに電話して彼女を巻き込むことはできない。翌朝、ヴェラと彼は中古車屋に車を売りに行く。彼はとにかく早く車を手放したいが、ヴェラは売値を吊り上げる。1850ドルでやっと合意し、契約のために事務所に入ったところで、アルは自動車保険の会社とその種類を尋ねられて答えに窮する。そこへ突然ヴェラが入って来て、取引は中止だという。ヴェラはドライブイン・レストランで、ハスケルの父が危篤だという記事の載った新聞を見せる。ヴェラはハスケルの父の遺産を狙っているのだ。アルは1850ドルとハスケルの700ドルで十分じゃないかとヴェラに言うが、ヴェラは彼にハスケルになりすますよう迫り、従わなければ警察に電話すると脅迫する。口論の末、彼女は電話を抱えて寝室に駆け込む。彼は電話をやめさせようと必死で電話線を引っぱる・・・・・・ そしてドアを蹴破ると、ベッドの上には、首に電話線が巻き付いて窒息死したヴェラの死体があった。
 そして彼は、ヒッチハイクでネヴァダ州まで来ていた。「ニューヨークには戻れない。アルは死んでいることになっているから。ハリウッドにも戻れない。そしてスー・・・・・・俺にできるのは彼女の幸せを祈ることだけだ。警察はヴェラの殺害犯としてチャーリー・ハスケルを追っている。皮肉なことに、彼のせいでこれに巻き込まれた俺は、今は彼のおかけで逃れることができている。警察が死人を追っているあいだは、俺は安全だ。だがひとつだけ確かなことがある−ある日、俺がヒッチハイクしたのではない車が止まる。運命か、何か謎めいた力が、俺を呼び止める・・・・・・」