西部の王者

Buffalo Bill 1944年(90分)

監督/ウィリアム・A・ウェルマン

製作/ハリー・シャーマン 原作/フランク・ウィンチ 脚色/イーニアス・マッケンジー クレメンツ・リプリー セシル・クレーマー 撮影/レオン・シャムロイ 音楽/デイヴィッド・バトルフ

出演/ジョエル・マクリー(バッファロー・ビル) モーリーン・オハラ(ルイザ・フレデリチ) リンダ・ダーネル(ドーン・スターライト) トーマス・ミッチェル(ネッド・バントライン) エドガー・ブキャナン(チップス・マクグロウ軍曹) アンソニー・クイン(イエローハンド) ジョージ・レッシー(ヴァンダービア)

 1877年、西部から来た男の名がアメリカ全土に知られるようになった。彼は大陸を発見したのでもなければ戦争の英雄でもなく、将軍、政治家、科学者でもなかったが60年以上経った今でも、その伝説が生き続けている。彼の名はウィリアム・フレデリック・コディ、老いも若きも、富める者も貧しき者も、すべての人々が彼のことを「バッファロー・ビル」として知っている。これはそんな彼の生涯の物語である。
 優れたハンターにしてガイド、インディアンとの交易者であるバッファロー・ビルことウィリアム・コディは、酔っぱらったシャイアン族に襲撃された上院議員フレデリチとその娘ルイザ、実業家ヴァンダービア、随行していたマクグロウ軍曹らを助ける。ビルに惹き付けられるルイザ。後日ビルのもとに夕食会への誘いを兼ねた礼状が届く。砦のなかで学校を開いている明晰なシャイアン娘ドーン・スターライトの文案をそのまま書き写し返事を書くビル。彼を憎からず思うスターライトは手紙の文面がルイザとビルを親密にさせないように注意して言葉を選ぶ。
 フレデリチ家の夕食会でビルは記者で作家のネッド・バントラインと知り合う。野心あふれる実業家ヴァンダービア、ブレイジャー将軍もいる。ビルはヴァンダービアの進める土地開発に反対である。そこにシャイアンの族長の息子であり、かつてビルがその命を救ったこともあるイエローハンドがやって来る。イエローハンドとスターライトは兄妹である。シャイアン族は自分たちの土地を破壊する鉄道建設に抗議しに来たのだ。彼らの文化や生活を理解も尊重もしない軍と実業家のため、交渉は成り立たず関係は決裂。戦いの予感。一方そのころルイザは、嫉妬のため様子を伺いに来て、部屋に忍び込み、勝手にルイザのドレスを身にまとったスターライトと対面していた。親しくなりかけるもルイザの言葉のなかの差別意識に傷つき腹を立てるスターライト。
 そして追いつめられたシャイアン族は戦うしかなく、彼らは立ち上がった。殺戮、放火、その恐怖は西部一帯に広がった。開拓者の集落が焼き討ちされ、人々は逃げまどう。
 インディアンに詳しい斥候、連絡係として活躍するビル。しかし本来彼はインディアンを友と思い、戦いを避けたいと願っている。スターライトがフレデリチ議員を人質にして有利に和平交渉するという策を立て、それが実行される。議員奪還のため追跡するビル。しかし待ち受けていたシャイアンに捕らえられ、嬲られる。そこへ戻ってきたイエローハンドはビルを解放し、要求を受け入れて議員も解放する。イエローハンドは言う「これでもう貸し借りはない。次に会えば敵同士、いつかお前の頭の皮を剥ぐ」。
 とりあえず一時はシャイアン族と合衆国の間に和平協定が結ばれる。ルイザはビルからシャイアン族の求婚のしきたりを教えてもらう。そのまま、それに則って互いの愛を確かめるふたり。
 こうして東部から来た淑女と西部男が結ばれた。彼らは砦の近くに家を建て、開拓地での生活を始めた。
 二年ほど経って、彼らのもとにルイザの父親のフレデリチ上院議員が訪ねてくる。「苦労しているようだな。だがじきに楽になる」「なぜですか」「ヴァンダービアが新しい事業を始めた。大々的なバッファロー狩りとそのツアーだ。ビル、きみは現場の責任者になってくれ」。
 ハンターたちが西部にやってくる。バッファローの皮は東部で高値がついた。バッファロー狩りは一大産業となり、一ヶ月に五千頭以上という規模で大量にバッファローが狩られた。ロシア皇太子も狩りに参加し、ビルもそのガイドを勤めた。ビルは乱獲を心配するがバントラインは気にもとめない。その晩ルイザに妊娠を告げられる。
 ……白人によるバッファローの乱獲で生活が成り立たなくなったシャイアン族。指導者イエローハンドはスー族の長クレイジーホースと連帯し、合衆国と戦うことを決める。スターライトにも部族内の通達がきて彼女は学校を閉鎖し、戦のため家族のもとへ帰る。
 ビルとルイザは出産のため町へ向かうが、その途上老いたため捨てられたインディアンの老婆に出会う。ほどなくして産気づくルイザ。老婆の助けもあって洞穴で出産する。
 シャイアン族スー族の出陣の儀式がおこなわれている。出撃するインディアンの戦士たち。
 ビルたちが砦に帰って来ると開戦を知らされ、軍に協力を求められる。ビルはルイザに決断を迫られる「命令じゃないのでしょ。あなたが行くのなら私たちは別れて東部に移ります」。
 ビルはガイドとして軍に協力する。彼は誤った判断を下す将校に抗い、道を間違えたふりで最重要地点ウォーボネット峡谷へと分隊を導く。圧倒的な軍勢の不利のなか援軍到着までシャイアン族スー族を食い止めることができるのだろうか。敵陣のなかにイエローハンドの姿を認めたビルは挑発し、一騎打ちに持ち込み、時間を稼ぐ。激しい争闘の末、ビルはイエローハンドを倒す。援軍が到着し、合衆国軍はインディアンたちを撃破する。スターライトも戦死。ビルが彼女の亡骸を抱き上げていると一人の兵士がビルに問いかける「知り合いか?」「ここに倒れるみんなが友人だった……」。
 この戦いの功績でビルに勲章が授与されることになった。マクグロウ軍曹に来た通知には、彼のここ三十年の軍隊生活は書類上の間違いであり、そのお詫びに退役軍人用ホームに入ってよろしい、と記されていた。マクグロウはやけくそになりかけるが、中庭の星条旗を目に留め、思いとどまる。ふたりは連れ立ってワシントンへ向かう。作家バントラインの書いた本によって「バッファロー・ビル」が人気者、英雄になっていることを知る。大統領からの叙勲を待っているときに生き別れたままの息子キット・カーソンが危篤だという知らせが入る。ルイザ宅へ駆けつけるもキットは亡くなる。皮肉にも戦火を逃れてきた東部の都会で感染したジフテリアが彼の命を奪ったのだ。
 ニューヨークでの歓迎式典で主催者ヴァンダービアのインディアンに対する不遜な態度に怒りを覚えたビルはヴァンダービアに反対し、インディアンを賛美する。ヴァンダービアは新聞などを使い「ビルつぶし」を仕掛ける。嘘つき呼ばわりされ、世間に叩かれ、無一文になるビル。偶然立ち寄った遊戯場の射的で人々の度肝を抜き、店主に見込まれて射撃ショーを始める。ルイザと再会する。子供たちに大西部の思い出を語るビルの姿から、バントラインは「バッファロー・ビルのワイルド・ウエスト・ショー」の企画を発想する。ショーは大当たりし、威厳あるインディアンの姿や西部の勇壮さを東部、アメリカ全土、そして世界各国に知らしめたいというビルの願いはかなった。彼もルイザもいまや老人である。ついにバッファロー・ビルは引退を宣言する。満場の観客、ことに亡き息子を思わせるような少年たちからの賞賛と感謝の喝采がビルを包むのであった。