秘められた過去(ミスター・アーカディン)

Mr. Arkadin(Confidential Report) 1955年(91分)

監督・原案・脚本/オーソン・ウェルズ

プロデューサー/ルイ・ドリヴェ 撮影/ジャン・ブールゴワン 音楽/ポール・ミスラエ

出演/オーソン・ウェルズ(グレゴリー・アーカディン) ロバート・アーデン(ガイ・ヴァン・ストラッテン) パオラ・モーリ(ライナ・アーカディン) マイケル・レッドグレイヴ(プルゴミル・トレビッチュ) カティーナ・パシィーヌ(ソフィー) アキム・タミロフ(ジョコブ・ズーク)

(あらすじ)
 ある大王が一人の詩人に尋ねた。「私の持っているものの中から貴殿に何を与えることができるのかな」。彼は賢明にも答えた。「どんなものでも。ただし閣下の秘密は別でございましょう」。12月25日、1台の飛行機がバルセロナ沖で発見された。無人で飛んでいたのである。この事件の調査は、ヨーロッパの少なくとも一つの政府の崩壊へとつながるものであった。そして、この映画はその事件に基づいて作られたものである。
 (以上、冒頭のタイトル並びにナレーションより)
 ナポリ湾。一人の男が何者かに背中をナイフで刺される。犯人とおぼしきびっこの男の方は、警察に追われて海中へと没してしまう。たまたま近くをとりかかったアメリカ人青年ガイ・ヴァン・ストラッテンと友人のミリーは、ブロッコと名乗るその男の最後を看取ることになる。苦しい息の中でブロッコはミリーに2人の名を告げる。そのうちの一人がグレゴリー・アーカディンというものであった。
 この事件で警察に捕まっていたストラッテンは出所後、スペインでミリーと合流し、アーカディンについて嗅ぎ回り始める。彼とすれば巨万の富を持つアーカディンを強請るつもりだったのである。首尾よく彼は、アーカディンの娘ライナに近づくことに成功し、ついにはアーカディン邸で開かれている仮装舞踏会へ潜り込む。初めてそこでストラッテンはアーカディンに会うが、アーカディンの方でも彼のことを調査していた。実はアーカディンは娘に間違いが起きぬよう、常に見張りの私立探偵を付けていたのである。このような扱いにストラッテンは憤然として出ていく。
 ストラッテンはアーカディンのことはあきらめてスペインを去ろうとするが、その時にミリーがナポリでブロッコから聞かされていたもう一人の名前を思い出す。それはソフィーという女性名であった。そしてその直後に、アーカディンの秘書から呼び出しの電話が来る。改めてアーカディンの居城に出向いたストラッテンは、アーカディンから驚くべき依頼をされる。1万ドルの報酬でアーカディン自身の過去を探って欲しいというのである。彼の説明によれば、1927年にチューリッヒで20万スイスフランを持って発見された以前のことは、全く覚えていないという。この調査を承知したストラッテンに、アーカディンは娘のライナには会うなという注文を付ける。実は彼の狙いは、むしろこちらの方にあったのであるが、ストラッテンは知る由もなかった。さらにアーカディンは、ミリーも自船に招いて話を聞き出そうとする。酒に酔った彼女は、ストラッテンが密輸をやっていたことや、彼の調査の進行状況などをぺらぺらと喋ってしまう。
 ストラッテンはといえば、コペンハーゲンにノミのサーカスを主催する教授と呼ばれる男を訪ねていた。ストラッテンはソフィーのことをいろいろと尋ねるのだが、旨くいかない。ミリーの方も調査を進めており、サデュースという男からトレヴィッチの名前を聞き出す。だが彼女は自分の背後にアーカディンの姿が見えることには気付かない。ミリーの調査でわかったトレヴィッチを、ストラッテンはアムステルダムに訪ねる。この男にも手間を取らされるが、どうにかストラッテンは糸口となりそうなゲル男爵夫人の名を聞き出し、さらに調査を進めていく。
 しかし、ナゲル男爵夫人との面会は、アーカディンの方が先回りしていた。彼は彼女からソフィーがすでに結婚していることを聞き、さらに現在の名前と住所も教えてもらう。一方ストラッテンは、調査途中のパリのホテルのロビーでライナに出会う。彼女の方で捜していたようなのだが、2人が部屋にはいるとアーカディンが待っている。そこでストラッテンは腹立ち紛れにライナに向かって、自分がアーカディンに雇われていることを喋ってしまう。それでもストラッテンの調査は進められ、何か秘密を握っているらしいオスカーを訪ねるが、この訪問は何も聞き出すことができず、失敗に終わる。
 そしてストラッテンはメキシコへやってくる。そこにはかつてのフィー、現在のマルティネス婦人がいるはずなのである。狙い通りに、ストラッテンは彼女から秘密を聞き出すことに成功する。それによれば、アーカディンは以前、白人奴隷の売買をやっていたということであった。その上で彼女はズークという男の名も挙げる。実はアーカディンも同じメキシコに来ていた。ストラッテンはソフィー=マルティネス婦人から聞いた話を告げるが、アーカディンは娘への口外を固く禁じる。もっとも、ライナの方もストラッテンと飛行場で立ち話をした限りでは、少しは父の過去を知っているようなものである。ともかくもストラッテンはズークと会うべくミュンヘンへ飛ぶが、刑務所に入っていたはずのズークはすでに出所していて当てはずれとなる。このことをパーティでおちあったアーカディンに伝えると、彼は残るのは一人かと言った意味の言葉をつぶやく。不審に思ったストラッテンは、その直後にミリーが殺されたということを知る。フィー=マルティネス婦人への電話も通じず、どうやらオスカーも殺害されてしまったようなのである。ここに至り、ようやくストラッテンはアーカディンの真意を見抜く。自分の過去の調査と称しながら、実際は自分の過去の醜聞を知る者たちの抹殺を企んでいたのである。
 そうした中で、ストラッテンは改めてズークを訪ねていく。殺害の切迫を語るストラッテンの話にズークはいっこうに動じる気配もなく、程なくアーカディンが姿を見せる。その場はどうにか事もなく済むが、ほどなくズークはストラッテンのホテルの部屋で殺されてしまう。それは、ズークのたっての願いでぐーす・リバーをストラッテンに渡してやったのも、他ならぬアーカディンであった。
 いよいよストラッテンは自分のみに危険が迫っているのを感じ、空港から脱出を図る。アーカディン側も手を回し彼を足止めしようとするが、かろうじて彼は脱出に成功する。バルセロナ空港でストラッテンはライナに真相を語ろうとするが、その前に彼女は、軽飛行機で後を追ってきたアーカディンの呼び出しにより管制塔へ連れて行かれる。しかしアーカディンの詰問に対し、ライナは内容も分からぬままに、ストラッテンの指示通りに返答する。すなわち、ストラッテンに会った、そして、遅すぎると。これを聞いたアーカディン機からは、突如として交信が途絶えてしまう。
 こうして、ようやくのことで身の安全を確保したストラッテンではあったが、ライナからは見捨てられ、去っていく彼女の車を見送ることしか許されないのであった。