条理ある疑いの彼方に(合理的な疑いを越えて)

Beyond A Reasonable Doubt 1956年(80分)

監督/フリッツ・ラング

プロデューサー/バート・E・フリードロブ 脚本/ダグラス・マロー 撮影/ウィリアム・スナイダー 音楽/ハーシャル・バーク・ギルバート

出演/ダナ・アンドリュース(トム・ギャレット) ジョーン・フォンテーン(スーザン・スペンサー) シドニー・ブラックマー(オーステン・ギャレット) フィル・ボウナフ(トンプソン検事) シェパード・スタッドウィック(ウィルソン)

社会的正義の名の下に死刑を断行するのは、はたして正しいのか。その是非を問うべく、自らを殺人事件の容疑者に仕立てて危なっかしい狂言芝居に打って出た記者の気になる運命や、いかに? 驚天動地のどんでん返しが待ち受ける、ラングのアメリカ時代の最終作。

(あらすじ)
 刑務所で死刑囚が処刑された。立会人の中に、新聞社社長のスペンサーと彼のもとで働く有能な記者トム・ギャレットがいた。死刑に反対するスペンサーは、検事のトンプソンに、無実の人が死刑に処せられる危険を訴えたが、トンプソンは頑として聞き入れなかった。ギャレットはスペンサーの娘スーザンと恋仲だった。彼女はギャレットにライターをプレゼントした。2人はゆくゆくは結婚する予定だったが、ギャレットは結婚を延期しようと言った。スペンサーはギャレットに、死刑廃止を訴えるため、無実の人間を犯人に仕立て、死刑判決が下されたところで真実を明かすというやり方はどうだろうかと話した。
 ある日、若い踊り子が殺される事件があった。スペンサーとギャレットは計画を実行に移すことにした。警察では殺された踊り子パティ・グレイの同僚の踊り子たちが取り調べを受けていた。彼女らの供述から、パティが殺される数日前に大金を手に入れていたこと、事件当夜に彼女を来るまでクラブから連れだした男がいたこと、男がグレーのコートを着てパイプを吸っていたことなどが明らかになった。スペンサーとギャレットは、ギャレットを犯人に仕立てるべく、様々な工作を開始した。ギャレットはまずパティの勤めていたクラブに行き、踊り子のドリーに接近した。また、犯人が着ていたのと同じようなグレーのコートを買い、犯行現場にスーザンから贈られたライターを置き、自分の車にパティが使っていたのと同じボディ・メイク用のおしろいを付けた。更に車の内部にある全ての指紋をわざと拭き取り、ダッシュ・ボードにはストッキングを忍ばせた。これらの準備は後でギャレットの無罪を証明するため、スペンサーが逐一写真にとって記録した。ある夜、土リーをクラブに送ってきたギャレットを見て、別の踊り子が不審を抱き、彼女の薦めでドリーは警察に連絡した。数日後、ドリーを夜のドライブに誘い出したギャレットは、車内で彼女に迫ろうとしたところを警察に逮捕される。
 トンプソン検事による取り調べが始まった。ギャレットの容疑は濃厚だった。トンプソンの助手ロバート・ウィルソンは、かつてスーザンを愛していたこともあって、事件の調査に力を入れた。彼の調べでは、ギャレットは大学を出た後、シカゴの新聞社に勤め、それからスペンサーの新聞社に入ったが、特に問題となるような前歴はなかった。
 裁判ではトンプソンがギャレットの有罪を厳しく主張した。審査の過程で、ギャレットが犯人であることを示唆する証拠や証言が次々と提出され、またギャレットが事件の前後に自分の口座から大金を引き出し、再びそれを口座に戻していたこともあって、彼に死刑の判決が下される事はほぼ確実だった。判決の朝、スペンサーは証拠写真をそろえて来るまで法廷に向かうが、途中で車がトラックに衝突して炎上し、スペンサーは死亡、写真も燃えてしまう。ギャレットから真実を明かされた弁護士は法廷でそのことを訴えるが、証拠が無いために聞き入れられず、ギャレットには死刑の判決が下る。
 スーザンのたっての願いで、ウィルソンはトンプソンに事件の再調査を願い出た。彼はパティが以前勤めていたバーを訪ね、そこの主人から、彼女の本名がエンマ・ブルーカーであること、当時つき合っていた男がいたことを聞き出した。ウィルソンは念のためギャレットの写真を見せたが、主人はこの男でないと答えた。結局、問題の男も4年前に死んでいたことが分かり、ギャレットを救う道は閉ざされたかに見えた。ところが、スペンサーが万が一の場合に備えて用意しておいた別の書類が見つかり、トンプソンもギャレットの無実を認めて、ギャレットは知事による特赦を受けることになった。

 (この後の部分は映画をご覧になってからお読みください。)

 スーザンは刑務所にギャレットを訪ね、喜びを分かち合った。ところが、ギャレットはまだどこにも報道されていないパティの名前を口にした。彼女が問いつめると、ギャレットはエンマと結婚していたこと、スーザンと結婚するために金を渡して離婚しようとしたが、うまく行かず彼女を殺したことを白状した。スーザンは絶望のうちに帰宅した。家ではウィルソンが待っていて、間もなく特赦が行われると告げた。スーザンは彼に真実を伝え、知事に電話しようとするが、その場に泣き崩れてしまう。刑務所では今まさに知事が赦状に署名しようとしていた。そこにウィルソンから電話が入った。受話器を置いた知事は、特赦は行わないと告げた。ギャレットは再び牢に連れ戻された。